ボクはボクの望むままに生きる、それだけさ。


 シューティング☆スター


「……からかうに決まってるわ…」
「…だが、………」
 馴染みの声が聞こえて、吹雪は足を止めた。
 いつもの調子で声をかける。
「やぁやぁお二人さん、ボクに隠れて仲良くデート中かな?」
 すかさず明日香がクールに突っ込む―かと思えば、意外にも真っ赤になって黙ってしまった。
「おや?おやおや?…ふぅ〜ん♪」
 その光景を見ながら、吹雪はにやにやと笑う。
「やめてよ兄さん…」
 いつもの迫力はどこへやら、明日香は赤い顔を隠そうとうつむいてしまう始末だった。
 そんな明日香の隣で、亮はいつもの真面目な顔で言った。
「吹雪、明日香とつきあうことを許してくれるか?」
「亮!」
 そんなことを吹雪に聞く必要は無いと言いたかったのだろうが、今の明日香にはそんなセリフすら恥ずかしくて言えないらしい。
 吹雪は満面の笑みで答える。
「もちろん大歓迎さ。どこの馬の骨とも知れない奴と違って、亮なら安心して可愛い妹を任せられる」
「ありがとう」
「妹をよろしく頼むよ?恋の魔術師ともあろう者が、邪魔して悪かったね、それじゃ、ごゆっくり〜」
「兄さん!!」
 いつもどおりというには若干甘い罵声を聞きながら、吹雪は去っていった。
「もう…」
「………」
 その後姿を、亮は微妙な表情で見送っていた。
(吹雪…?)

 * * *

 それから数日後。
「吹雪の様子がおかしい?」
「そうなの」
 灯台のもとで過ごす時間が増えた二人だったが、つい最近までここで話すのが定番だった吹雪の話題を久しぶりに持ち出していた。
「昨日もデュエル中に愛が足りない!なんて言い出して相手を困らせたらしいし、誰にでも愛想ふりまくし、サーフィンしてるし」
「…いつものことではないのか?」
「いつも以上なの。それなのに…なんというか、異常行動にキレがないというか…」
 傍から聞いていたらギャグにしか聞こえない会話だったが、それを真面目にやるのがこの二人の特技だった。
「………」
「亮?」
 反応の無い亮をいぶかしんで、明日香が声をかける。
「…ああ」
「どうしたの?」
「…いや、なんでもない。吹雪にはオレが話を聞いてみよう」
「話を?」
「吹雪のことが心配なんだろう?」
「別に、そういうわけじゃ…」
「あまり意地を張るな」
 珍しく柔らかな笑顔で亮は言った。
 吹雪の突き抜けた言動に容赦なく突っ込みを入れてコントロールする明日香だったが、根は兄想いであることは吹雪の不在中に証明済だ。実物が実物だけに、無事だと分かっていると素直になりにくいらしい。
「…兄さんのこと、よろしくね」
「ああ」
 数日前同じセリフを聞いたと、ふと思った。

 * * *

「吹雪、お前、何か隠していないか?」
「へ?」
 単刀直入に切り出した亮に、吹雪は間抜けな返事をした。
 亮は逆にたじろぐものを感じながらも、気がかりだったことを話した。
「…やはりお前は、オレと明日香がつきあうのに反対なんじゃないのか?」
「何言ってるの、そんな訳ないじゃない?」
「それならあの日…何故、目を逸らした?明日香は気づかなかったようだが、ほとんど逃げるように帰って行っただろう」
「なんのこと?」
「とぼける気か?」
「とぼけてないって。だいたい、どうしてボクが二人がつきあうのに反対しなきゃいけないのさ」
「それは…」
「理由が無いじゃないか」
「…オレもそう思ったが…それにしても、今のお前は普通じゃない。オレと明日香、両方がそう思っているんだぞ?何かあるのは確かだろう」
「う〜ん、そう言われてもねぇ」
 あくまでいつものとぼけた調子を崩さない吹雪に、亮は食い下がる。
「…例えば…その、お前も明日香のことを好きだったとか…。…妹としてではなく」
 一瞬。
「っははっははは!!!」
「笑うな!!」
「い、いや、ごめんごめん、で、でも、それにしても…亮が、ははははっ!!」
「オレもありえないとは思ったが…!」
「いやいや、いい線いってるよ。まったく…困ったね」
「…なんだと?」
 ひとしきり笑い終えた吹雪は、変わらない態度で続けた。
「そこまで亮を悩ませたんじゃ、もう隠してる意味が無いってことさ。ボクも堕ちたものだねぇ〜」
 ただその声音がうっすらと真剣味を増していることを、亮は感じ取っていた。
「参ったなぁ、誰にも言わないつもりだったんだけど」
「何かあるなら、相談すればいいだろう」
「ほんとにいいの?」
「ああ」
「ボクも好きだったんだよね、亮のこと」
 今度こそ、時間が止まった。
「………何?」
「明日香じゃなくて、亮のことが好きだったんだよ」
 吹雪は悠然と笑っている。
 その冗談めかした微笑みを、演技だと思ったのは初めてだった。
 深い瞳が、真実だと訴えている。
「……………オレは」
「あーーっと、みなまで言うな、キミの気持ちはよく知っている。だからこんなことは気にせず、明日香と幸せになってくれたまえ」
「吹雪!」
「…言わないでよ」
 どこまでも笑みだけは崩さないまま、けれど声には余裕がなくなってきているようだった。
「…オレはお前の気持ちには応えられない。お前のことは…大事な、親友だと思っている」
 それでも言わなくてはいけないと、何かに駆り立てられるように亮は告げた。
「……うん、ありがとう」 
「…お前は、それでいいのか?」
「いいよ?」
 吹雪は、優しい瞳で言った。
「恋なんてのはね、流れ星と同じさ。一瞬の光に願いを託す。その願いが叶うかどうか、流れ星は知っちゃいない。ただ心の支えにはなる。願いを叶えるのは…叶え続けるのは、自分自身なんだ」
「…お前の願いは?」
「………亮もけっこう酷いよね〜。そりゃあ亮と幸せになれれば嬉しかったけど?別にそればっかりが道じゃない。親友なんてありがたいポジションももらってるしね。今は亮と明日香が幸せなら、それでいいさ」
「…吹雪」
「それに、流れ星はひとつとは限らない。ボクはゆっくり次の流れ星を待たせてもらうよ」
 言うべき言葉が見つからずに、亮は黙って吹雪を見つめた。
「…こんなところでボクに構ってちゃ駄目だよ。明日香はあれでけっこう寂しがり屋さんだから、行ってあげたら?」
「……そう、だな」
 吹雪の意図を汲み取って、亮は言った。
「吹雪、オレもお前には幸せになってほしいと願っている。親友としてな」
 吹雪は一瞬目を瞠ったが、微笑んで答えた。
「…うん」
 亮は同じように頷くと、吹雪を残して去っていった。
 その後姿を見送って、吹雪は一人ごちる。
「…流れ星はひとつじゃない、か」
 呟いた声を、今は聞く人もいないから。
「……それでも結構、泣けるけどね」
 かすかな星明りに、涙は煌いて闇へと溶けた。

 070724
 070725(微修正)

 
万丈目といい、GXキャラは爽やかだね!(は?)
なんか清清しい気分になる。気のせいかもしれないが☆
VSダークネスとか見てたら明日香→十代、亮は翔と明日香の兄が自分の中で固定化しそうだったのでその前にと思って偽者度200%でお送りするよ!(意味が分からない)
とりあえずラストの一言が言わせたくて適当につけたタイトルのせいでポエマーにならなければいけないとは夢にも思いませんでした。スルーしてくださいvv
あと真面目な顔で恋や友情を語る亮を書くのは大変な気力が必要でした。何度キーボード打つ手が止まったことか!一応彼らしさは目指しましたが…それ以前に口調わかんねぇ☆
らしさは目指したけど口調わかんねぇは全員に言えることですが!(…)
お調子者のままシリアスをこなす吹雪さんを書きたかっただけです。それでは!

 
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