背後から声をかけられて、不覚にも一瞬動揺した。

 現実現在 ALL and NOTHING

「変われば変わるモンだな」
 そんな風に言われて、自分が違和感を覚えるという事実を、誰が知っているのだろう。
 確かに変わったとも思う。
 けれど一方で、果たしてこの変化を“変わった”と言っていいのかと、どこかで疑っている。
「おいおい無視かよ?同業者同士仲良くしようぜ」
 同業者だからこそ、親交を深める意味など無さそうなものだ。
 自分たちがやっているのは非合法の地下デュエル。
 限りなく死に近い場所で繰り広げられる見世物。
 すべてが刹那で消えていく世界。
 ため息をついて亮は言った。
「オマエにもう一度会う予定は無かったからな」
「そりゃそうだ、オレ様の筋肉でなきゃ死んでたからな、あれは」
 衝撃増幅装置を使う地下デュエルでは、再起不能になるデュエリストも珍しくはない。 
「………」
 亮は答えない。
「クッ、良心が痛むかい?この程度割りきらなけりゃ、この地下で生き延びることはできねぇよな」
 分かっている。
 ここは誰かを潰さなければ生き残れない場所。
 だがそれは―ここだけなのか?
 アカデミアで、プロリーグで、今まで自分がしてきたデュエルは、ここでのデュエルと…本当にそんなにも違うものだったのか?
「…デュエルで使われるコインは、ウジャト眼が表、千年パズルが裏だ。だがそれは、便宜上決められているだけの事に過ぎない」
 地下デュエルを続けることを、迷っているわけではない。
 顔だけで振り向くと、亮は犬飼を睨みつけて言った。
「見えているほうが表だ。これで満足か?」
「…なるほどね」
 不敵に笑う犬飼は、経験の差なのか余裕が崩れることなどないように見えた。
 この地下に生きる者達の中では、多分自分は特殊な部類なのだろう。
 特殊などと言うのもおこがましいが―犬飼が興味を持つ程度には。
 自分でも、これだけあっさりとこんな世界に馴染めるとは思ってもみなかった。
 だからと言って今までの自分が偽りだったと思っているわけでもない。
 今の自分も以前の自分も、偽りなんてありえない。
 自分に嘘をつきながら生きられるほど、器用ではないから。
「気が済んだなら失礼させてもらう」
 答えも待たずに歩き出す背後から、犬飼の声が聞こえた。
「あんまり生き急ぐなよ、ニイチャン」
(…無理な相談だな)
 余計なお世話だ、という感想と同時に、そんなことを思った。

 070922
 070925(微修正)

一人称・二人称はカタカナ、それが遊戯王クオリティ。のはず。
二人が会ったのは地下闘技場の廊下とかですよきっと。そんなのあるのか知りませんけど。…シチュエーションがエドとの駆け引きとドンかぶりでごめんなさい。
犬飼がいい人過ぎて笑った。最初は客の予定だったんだがなんの客なんて聞いちゃ駄目。
コインの裏表の柄はタグフォ設定です。なんかメビウスの輪っぽい例えでもあるな…唐突にしか出せなかったこのセリフが一番に思いついたセリフなので、この話が分かり難いのは勘弁してくださいorz
このヘルカイザーのベルトは「K」で(笑)

 
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