普通にお見舞いのつもりだったのに。 　憧憬と焦燥、懺悔と告白 「キス、していい？」 「…人が来る」 「来ないよ」 　来たらその時やめればいいじゃん、なんて、正直見られようがどうでもいいと思いながら、吹雪は許可なしで唇を奪った。 （あ、やばい） 　触れるだけのつもりが、足りなくて、亮が嫌がらないのをいいことにだんだん深くなって。 　頭のどこかで警鐘が鳴っているのは、何故なんだろう。 　このまま進んじゃ駄目だ。 　何かが違う。 　そう、感じているのに。 「…吹雪…？」 「…っ」 　キスが途切れた一瞬に呼ばれて、我に帰った。 「…ごめ…」 　どうしてか、口にのぼりかけたのは謝罪だった。 「いや…」 　亮は一瞬口ごもって、こう続けた。 「大丈夫か？」 　状況が分からないのは亮のはずなのに、一番戸惑っているのは吹雪だった。 　何が違う？ 　いつもなら、もっと、簡単に、何か答えられるはずなのに。 「…今さ、亮のこと抱きたいんだけど、」 　微妙に不穏なことを口走ったけれど、亮は落ち着いてこちらを見ている。というより―なんだか、心配そうに。 「抱いちゃ駄目だって、思うんだよ。何か違うって」 「…何が違うんだ？」 　鸚鵡返しに聞いてくるのは、ただ先を促すためだけなのかもしれない。考えているのは吹雪で、何か言いたいのも吹雪で、言えないのも吹雪で。 「…わかんない。…ごめん」 「別に謝ることはないと思うが」 「そう…かもね」 　でも。 　そう否定してしまいたいのが何故なのか、分からない、怖い。 （だって…なんか、切羽詰りすぎだよ、ボク） 　冷静なまま自分を見つめる瞳が、何故だかいたたまれない。 （…いたたまれない？） 　ぐるぐると正体の分からない後ろ暗さから目をそらせずに、亮を見つめる。 　綺麗なことも汚いことも、色んなものを見てきたはずの瞳は、昔以上に澄んでいて。 　瞳に映りこむ自分の姿に、答えが見えた気がした。 「…でも、今ボクが欲しかったのは、…亮自身じゃないから」 　そう言ってしまっても、亮は変わらずに穏やかな瞳で見つめる。 「亮が持っているものが、欲しいだけで、…何もかも奪うために犯したいって、そんな感じで」 　途切れ途切れにしか話せないのは、吹雪が考えながらしゃべっているからだった。その内容が吹雪としては物騒すぎて、なのに止められないのは、目の前の亮が何もかもを赦しているからだった。 「…ボクさ、何気に完璧主義者なんだよね。亮は見たまんまだけど」 「完璧に誰かを傷つけるのは完璧に悪いことなんだが、分かっているのか？」 「…文脈が随分飛んだね」 「そうだな」 　だがつまりはそういうことなんだろう？とでも言いそうな顔に、少しだけ気が抜けた。 　吹雪はベッドサイドに腰掛けると、内容は引き継いでも空気は引き継がずに続けた。 「でもねぇ、なんか自分半端だなーって思うと、嫌になっちゃうんだよね。ある意味亮はやっぱりどこまで行ってもパーフェクトだなとか思ったら、羨ましくなってさ。結局は立ち直ってここにいるわけだし…亮だって大変だったんだし、そりゃ実際やってたことは悪いことなんだろうし、まぁそこは否定しないけど、でも…亮は、答えを見つけたんでしょ？」 「そうだな」 　端的に答えた言葉は、不遜でもなければ謙遜してもいない、単に誠実な言葉。 「これでボクが羨ましくて亮を抱いたりしたら、代償行為じゃない？なんか悔しいし、亮に対しても失礼だと思うんだよね」 　少し考えてから、亮は真顔でこう言った。 「そんな理由で求められても構わないと思う程度には、オレは吹雪のことが好きなんだが」 　随分とストレートな言葉に、吹雪は思わず笑った。 「じゃ、そんな理由で求めたくないって思うくらい、ボクは亮のこと愛してるよ」 「…負けた」 「勝った？ははっ」 　なんの勝ち負けだか分からないが、心は軽かった。 　原因が解決したわけでもないのだけれど。 「あーあ、もう、置いてきぼりで嫌になるなー」 「全速力で行き過ぎるよりよほどいいと思うが」 「でもやりきったらかっこよくない？」 「格好のために悪いことをやりきってどうする」 「それはそうなんだけど。隣の芝生は青いというか、無いものねだりというか」 「まさにその通りだな」 「ちょっとそれどういう意味？」 「オレも吹雪が羨ましいという意味だが」 　きょとん、という形容詞にふさわしい表情で、吹雪は亮を見つめた。 「誰とでも明るく話せて」 「…この流れでそこなの？」 　脱力して吹雪が返す。 「吹雪のほうが職業デュエリストには向いているんだろうと思うことがある。生粋のエンターテイナーというか」 「褒められてるのかけなされてるのか分からないんだけど」 「悪気は無い。ただ、…本当のところは言いにくいだけだ」 「そこが聞きたいんだけど」 「間違っていたら嫌だ」 「そんなことないと思うよ？」 　口ごもってから、亮は言った。 「…誰かが自分のせいで不快な思いをするくらいなら、自分だけが傷つけばいいとか、それくらいのことを考えていそうだと、今のオレにはそう見える」 　さっきまでとは随分とテンションの違う言葉選びに、吹雪は感動してしまった。 「随分持ち上げたね」 「茶化すな、本音だ」 「うん、ありがと」 　*　*　* 「うん、ありがと」 　そう言って、一見普段どおり笑っている吹雪の中に、まだ危ういものを感じるのが亮の本音だった。 　ただそれ以上は、今言っても意味が無いような気がして、心の中で呟く。 （吹雪が、誰かを傷つけてでも“自分”を守りたいと思う時が来るのなら、その時傷つけられるのはオレでいい。…オレがいい） 　それはそれで、吹雪にとって特別な存在である証だから。 （…さすがに言えないな） 　果たして自分はどこからどこまで正気なのか、そんなことを思いながら、とりあえず今が幸せだとか思ってみる亮だった。 　071021

最後だけ亮視点だけど基本吹雪視点なSS。吹亮はそんなの増えそう…そしてほとんど吹亮吹なのはお約束。そして思考が私の中だけで完結して説明足らずなのもお約束。分かりにくくて本当にごめんなさい。うまく説明できないんだ…orz ４期OPと「亮は療養中」（シャレじゃない）のナスバレと何の変哲も無い（？）TF2吹雪デュエル中セリフでこんな妄想をしでかす私はだいぶやばいと思います。うん。まぁなんだ、亮が生きてて何よりだ。 164話あたりまで放映されたら、公式準拠親友設定でこの話書きなおしてみたいとか思う。思うだけかも。短編一話完結にしようとしたせいで没った全然二人が会話しない完全鬱展開とかもあるんだ、これ。 あ、最初の一行で期待しちゃった人がもしいらっしゃったら、ごめんなさい。 　 071022追伸 アップした後にちょこちょこ細部を微修正してまわってますごめんなさい。 そして今日落書きしたうっかり亮吹なおまけ↓

＋＋＋ 「…吹雪」「なに？」 ＋＋＋

逆でごめん。いや、なんかこの話、亮のほうが我慢できなくなりそうだと思って。 携帯で写メったのを画質調整とか消しゴムとかしたら大変なことに。

　
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