1 未来への寄り道 「ボク、亮と一緒に卒業できないんだ」 そう言った吹雪は、内容に反してわりと元気だった。 「…いいのか?」 「何が?」 「いや…お前の実力なら、先生に頼めば出席日数不足ぐらい試験か何かで代替するだけのことはしてくれるんじゃないのか?」 「…そういうのもまぁ、考えたんだけどね」 そう言って、吹雪は苦笑する。 相手が自分でなければ、ひょっとしたら見せない類の笑顔。 迷わなかったわけではないことは、その表情から察せられた。 「でも、せっかくデュエルアカデミアに入ったのに、まともに通ったの一年足らずなんて、もったいないじゃないか。そうは思わない?」 「…あ…」 そう言われて、亮はやっと気づく。 吹雪のいない、空白の二年間。 それは吹雪にとっても、空白の学園生活になってしまうのだ。 その代わりにあったものは、あまりにも過酷な時間。 「…そう、だな…」 笑っている吹雪を前にしては、今深刻に落ち込むのは何か筋違いな気がして、複雑な心境で頷く。 「でしょ?」 ほっとしたように、吹雪が言った。 「ボクにも、学園生活を三年フルに謳歌する権利はあると思うんだよね」 それは確かだろう。 あの過去が嘘のように思えるくらい、今ここでちゃんと笑えている吹雪を前にすれば、反対する理由もない。 そして同時に、さっき引っかかったことがなんなのか気がついた。 「オレばかり、損をしている気がするな」 今度は自分が苦笑する番だ。 「え?」 きょとん、とする吹雪に、穏やかな口調で亮は言った。 「お前のいない学園生活は、随分と退屈だった」 そういう言い方であの二年間を考えたのは初めてだった。 吹雪が行方不明だったことで、ある意味ずっと緊張していて、どこかやり過ごしていた学園生活。 「まぁ、翔や十代が入学してきて…お前も帰ってきて、最後の一年は十分すぎるほど楽しかったから、満足はしているがな」 「亮…」 「吹雪が決めたのなら、それが一番なんだろう。あと二年、しっかりアカデミアを満喫するんだな」 「ありがとう」 吹雪ならではの明るい笑顔。 それが輝く場所は、今はまだこの学園が相応しいのかもしれない。 「…明日香も大変だな」 「えー?大丈夫だよ、あれでボクのこと大好きなんだから」 「それを自分で言うのか?」 「別にいいじゃない?ボクも明日香のことが大好きだからね!」 「分かった分かった」 苦笑するしかない自分に、ふと吹雪が微笑む。 「ねぇ」 「なんだ?」 「ボクはボクで頑張るんだから、亮は亮で頑張ってよね!」 ファイト!と投げかけられたウインクに、隠そうとした寂しさを見透かされたらしいと気づく。 本来同じだったはずなのに、ズレてしまった卒業の時期。 それぞれの道を歩めと、見えない何かに叱咤されているようで。 少し、寂しかった。 (…かなわないな) 「ああ」 吹雪の激励に気を引き締めて、いつもの笑顔を取り戻す。 新しいスタートは、もう目の前に迫っていた。 080501 吹亮ファンとして、亮に寂しがらせてみた。 亮が明日香と出会ったのがいつなのかとか、灯台デートはいつからなのかとか、気になることはもりだくさん。人が二人っきりのときはもれなくデートと呼ぶのが最近の流行だと信じてる。 |