Embarrassment 「オレに構うな、吹雪」 それを掛け値なしに本心から言ったのは確かで、背後から返ってきた言葉にさらにそう思った。 「それは金輪際ってこと?それとも、今のキミに?」 それには答えられなかった。 ただ言えないだけではなく、実際に、答えなど出せなかった。 迷いなどないはずなのに、吹雪を前にすると酷く動揺する。 「残念だけど、その言葉は聞けないな」 当然だろう、そんなに簡単に離れてくれる人間なら、最初から自分の傍にはいないだろうから。 「今この場で、キミにデュエルを申し込む。断ったりは、しないだろうね?」 それは今の亮を肯定する言葉。 そしてだからこそ―戸惑いを隠すように、亮は無感情に振り向く。 「…いいだろう」 その声が震えていないことを祈る程度には、正直ギリギリの精神状態だった。 「「デュエル!!」」 * * * 「これで機械族なら、リミッター解除なんか使えるんだろうけどね。ターンエンド」 自分の場には、攻撃力11200のキメラテック・オーバー・ドラゴン一体のみ。 吹雪の場には、羊トークン4体、団結の力を装備して攻撃力6400となった真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラック・ドラゴン)。 一枚の伏せカード。 攻撃表示の真紅眼の黒竜は、攻撃を誘って伏せカードのトラップにハメるためか、あるいは伏せカードがブラフか。 (―ブラフじゃない) 「オレのターン、ドロー!」 ドローした手札に、勝負を決めに行くしかないと悟る。 「オレが使ってやろうか?」 吹雪の表情が険しくなる。 自分はと言えば、よくもこれだけ余裕な顔ができるものだと思いながら、だからこそ自分はデュエルをしているのかもしれないという思いが頭を掠める。 全力でデュエルに没頭している間だけが、むしろ今の亮が迷わないでいられる時間なのかもしれなかった。 目の前の戦術に全てをつぎ込んで、迷いを消し去っていく。 「手札から、速攻魔法発動!リミッター解除!」 これでキメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は22400。このターンで真紅眼の黒竜を破壊できなければ、キメラテック・オーバー・ドラゴンはリミッター解除の効果で破壊され、次のターンに真紅眼の黒竜の攻撃で、亮は負ける。 「これが最後だ!キメラテック・オーバー・ドラゴンで、真紅眼の黒竜を攻撃!エヴォリューション・レザルト・バースト!!」 「…罠(トラップ)カード発動!破壊輪(はかいりん)!!キメラテック・オーバー・ドラゴンを破壊する!!」 「ちっ…」 破壊輪は、互いのライフに、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを受けるカード。 キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は22400。 たとえライフが初期値の8000あったとしても、十二分にオーバーキルだった。 * * * 「…引き分けとはな。そんなに負けるのはイヤか?」 「ちょっと違うかな。どうせなら出来る限り全力でって、それだけさ」 「…何が違う」 「絶対負けたくなかったのは本当だけど。ボクのは動機が不純だからね」 「………」 「少しは楽しかった?」 吹雪は寂しそうに微笑んで言った。 そんな風に自分に接する吹雪だから、今は冷酷なまでに無感情な対応をすることしかできなかった。 いっそ誰もが見放してくれれば楽になれるかもしれないのに、誰も自分を見放したりしないことを、今でも変わらない感情を突きつけてくるから、ただ自分のためだけではなく逃げ出すわけにはいかなくなる。 まだ出ていない答えを、探すために。 「…ああ、悪くないデュエルだった」 デュエルの中でしか、きっと自分の探す答えは見つけられないから。 手を貸すとも、そんなことはやめろとも言わないで、吹雪はただこう言うのだ。 「…ボク、亮に構うのやめないからね?」 その言葉は、今は苛立ちを募らせるセリフでしかないのに、完全に突き放すことも出来なくて。 「勝手にしろ」 「ありがとう」 そう言って笑った顔は、いっそやるせないほどに懐かしかった。 071106 |
思い立ったが吉日生活。 『Smile Again』読んでる前提な書き方してますごめんなさい。 両方あわせるとそこはかとなく甘い関係を感じられたあなたは凄い☆(←なんか違わね?) どうでもいいけど、こう書くとそれなりに吹亮に見える気が。 もうリバでいいよorz 071117追記:これがものっそ亮吹に見えてきた。マジでリバでいいよ。 |