フリートーク


 こんこんっとドアをノックする音が聞こえて、吹雪は軽い返事をする。
「どうぞ〜」
 そして覗いた顔に一言。
「わお」
 なんとも気の抜けたリアクションになってしまった。
 それを言われた当の本人も、やはり薄味な反応をする。
「久しぶりだな」
「うん」
「まさかこっちが先に見舞いに来るハメになるとは思わなかったが」
 呆れたようなそうでもないような、曖昧な表情で亮は語る。つまるところ、旧来の友人によくある当たり前の空気という奴だ。
「ボクも思わなかったよ」
 吹雪も笑うしかなかった。
 というわけで、療養中の亮に見舞いに来られるという貴重な体験をすることになる吹雪だった。

 * * *

 アカデミアに紛れ込んだ謎の生徒、藤原優介。アカデミアに迫る異変。
 時を同じくして、夢に導かれるように再びダークネスの仮面を手にした吹雪。
 忘れていた記憶を取り戻すために、ダークネスの力を借りて十代と闘い、思い出したのは、ダークネスの力が藤原優介の魂によってある種呼び出されたものだったということ。藤原優介という同級生が―友人がいたこと。
 その一件で頭を打ったり体力を消耗したりとしたお陰で、こうして亮に見舞いに来られてしまうような身分になっていたわけだが。
「で、調子はどうだ?」
「うーん、特に体に異常があるわけでもないから、ちょっと疲れてるみたいな感じかな、大丈夫だよ」
「まぁ、見た限りそうなんだろうが」
「でしょ?」
 実際笑って見せられる程度には元気だった。
 しかし亮が気がかりなのは、どうもそのあたりではないらしい。
「…藤原のことを、思い出したと聞いて」
 藤原の名前を聞いて、吹雪がはっとする。
「少し心配だった」
「あー…そっか、亮は別に忘れたりとかしてないもんね」
「あぁ」
 藤原は吹雪と亮の同級生で、二人と同じく天才と呼ばれた生徒だった。
 もちろん亮は吹雪と藤原が親しかったことは知っていたし、詳しくはともかく、藤原が微妙に怪しげな研究をしていることも知っていた。
「ダークネスの一件のあと、記憶が戻ったはずのお前が一度も名前を出さないから、変だとは思ったんだ。ただ藤原は行方不明のままではあったし…刺激しないほうがいいのかと」
「んー…そうだね、言われても頭痛して眩暈して1分後に何も覚えてないとかそんな感じだったね、多分。気を遣ってくれてありがと」
「いや」
 またまた微妙な間が空いた。
「…今はもう、思い出せるようになったんだな」
「……うん、まぁね」
「ダークネスの力は、今でも残っているのか?」
「あるよ、ほとんど呪いみたいなもんだからねー。仮面がカードになっちゃったら影響力はなくなるけど、そのカード破ったり燃やしたりとかできないんだよ。危なすぎて捨てるのもどうかと思うしね。…それに、守ってくれた力でも…あるから」
「………」
 ずっと空白だった問い、どうして吹雪がダークネスの仮面を、その力を持っていたのか、その回答は既に得られた。
「あれが、歪んだ闇の力なのは事実だけど。藤原が命を懸けてボクを守ってくれたような…そんな感じもしちゃうんだよね〜、こうなっちゃうと」
 あの仮面は、藤原優介が命を懸けて生み出したダークネスの力の寄り代。それを託された吹雪。その後迷い込んだ異世界で、吹雪は文字通り友人の魂の宿る力で生き残った。その重さはいかばかりか。
「…あいつは、お前以上に常軌を逸した人間ではあったが」
「何気に酷い言い方するよね」
 半ば呆れ気味に呟く。
「お前ほど親しくなかったからな」
「………」
 むしろ吹雪も一緒くたにけなしたことに関しては、もはや悪気を感じ得る対象としてすら認識されないらしい。
「それでも、だからこそ、こんなことたいしたことじゃないから気にするなぐらいのことは言いそうな男だったぞ」
「………そう、だね」
 実際、そうなのだろうと思う。
 ダークネスの力を手に入れること、ダークネスと一体となって、永遠の命を手に入れること。
 その望みを今まさに叶えようとする藤原は、これ以上無いというくらい綺麗に笑っていて。
 すべてを手に入れたからこそ、ダークネスの仮面を託すことなんて、多分たいしたことじゃなくて。それが吹雪を守ったことだって、下手をすれば自慢すらしないんじゃないだろうか。藤原はただ、自分の願いを叶えてしまって、あとはどうでもよかったのだろうから。
 吹雪ならいいか、はい、くらいの軽さであの力を託された気がする。
 つまりは藤原の中で、吹雪が一番だったというのも事実なのだろうが。
「…気にするなって言われても気になるよって言ったら、なんで?とか聞きそうな奴だったしね。逆に多分乗っ取られて迷惑だったとか言っても気にしてくれない」
 故人になんてことを言っているのかという気もするが、そんな人間だったからしょうがない。
「そこまでか」
「そこまでだよ」
 正直藤原の友達は少なかった。
 吹雪は、そんな藤原の貴重な友人だったのだ。
「どうして、忘れちゃってたかな…」
「だからこそ、だろう」
 一人ごちたつもりの言葉に答えられて、吹雪は目をしばたたかせる。
「お前にそんなことをされれば、多分忘れないとどうしていいか分からない程度には混乱するぞ、オレは」
「…それ、愛の告白?」
「殴っていいか?」
「一応病人だよ?ボク」
「心配するな、オレもだ」
 見舞いに来たあげくふんぞり返る病人というのも珍しい。
 目的は一通り果したのか、亮が席を立つ。
「さて、オレもそろそろ帰らないとな」
「あ、その前に、亮のほうは今何してるの?療養中ってことしか聞いてないんだけど」
「寝るのと検査と体力づくりだな。体力づくりの一環でデュエルもしているが、制限がかかるから勝手にできない上、基本的に相手はシミュレーターでつまらん。どうせ見舞いに来るなら、時間を教えてやるから相手しに来い。許可をもらっておく」
「りょーかーい」
「じゃあ、しっかり休むことだな」
「亮もお大事に〜」
 ひらひらと手を振る吹雪を後に、亮は自分の部屋へと帰っていったのだった。

 071114

161話にてダークネスの一件が終って綺麗さっぱり忘れ去られた吹雪にむしゃくしゃして(微妙に嘘)やった。後悔はしていない。捏造は公式が出る前に終わらせます。
しかし実際、吹雪は入院くらいしてCTスキャンもとってしっかり検査されたほうがいいと思う。159話頭打ちすぎ(笑)
藤原と亮の距離は想像するにこのくらい。
本物の藤原って今までセリフ何個ありましたっけね。
OPの亮と吹雪の間の藤原は藤原復活フラグだと信じてる。
タイトルがとんでもなく適当ですが、何か。

 
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