僕らのコードネーム 前編


 とある昼休み。
「吹雪ー!さっきの授業のノート貸してくれよ」
「え、藤原出てなかったっけ?」
「出てたけど寝てた」
「…わかった、はい」
 半ば呆れながらノートを手渡す吹雪。
「サンキュー」
 受け取ったノートの表紙を見て、藤原が噴き出す。
「ここもちゃんと10JOINなんだな」
「当ったり前だろう!こういうのは地道な努力が肝心なのさ」
「これ定着させたいって吹雪も変わり者だよな〜ホント」
「藤原に言われたくないよ。キミなんか影でなんて言われてるか知ってる!?マッドサイエンティストだよマッドサイエンティスト!まぁ否定もできないし似合ってる気がするしボクには陰口だとは到底思えないけどね」
「代弁ありがとう。そうかー、俺も出世したもんだな。だがしかし…まだ足りないと思うのは何故なんだ!?俺が目指すのはまだこんなものじゃない…!」
「こんなところで何を口走っているんだ」
 後ろで呆れる声が誰のものかなど、振り向いて確認するまでもない。
「亮!調子はどうだった?」
 あさっての方向へと暴走する吹雪と藤原の会話に平然と割って入れる人物と言えば一人しかいないのだ。
 その亮は、とあるカードを狙って購買部へと新パックを買いに行って来た帰りである。
「オレが外すと思うか?」
 自信たっぷりの笑顔で示すカードは、この教室を出る前に宣言した通りのレアカード。
「うわ…1パックで絶対目当てのカード当てるんだから亮の引きって相当だよね」
「っていうかそれを堂々と当たり前だって言って嫌味じゃないんだからほんとおかしいよね」
「…おかしいとまで言われるほどのことか?」
 藤原に100%悪気が無いことを知ってはいるのだが(ちなみにこれが分かって受け入れられるのはあとは吹雪くらいである)、それでも若干傷ついてしまう亮。
「えー、おかしいよ。つまり普通じゃないって意味な。普通の人はそういうこと言うと嫌味とか思い上がりにしか聞こえないもん。でも亮だったら1ミリも思い上がりじゃないし、お前とは違うんだみたいな嫌味にも全然聞こえないんだよねー恐ろしいことに」
 嫌味に聞こえないのは、吹雪や藤原が亮と同格に立てる人間だからでもあった。
 それに、いくら亮が自信家だったとしても、この二人や親しい人間以外の前では、さっきとまったく同じセリフは出ては来ないのだ。
 ただそれらを差し引いても。
「やっぱり亮って風格があるんだよねぇ」
「そうそう、なかなかいないよな、こういう最強と優等生が同居してる奴ってさぁ」
「………」
 目の前で話されるには面映い形容詞が並んでいるが、どちらかというと呆れるのは自分だけのせいではないだろう。
 そんなことを考えながら、亮はとりあえず二人のやりとりを聞いていることにする。
「もう、周りの扱いも1年生にして生徒の鑑(かがみ)って感じだよね。でもなんかその呼び方がしっくり来ないのはボクだけ?」
「思う思う、日本語オンリーが似合わないんだって。スマートでかつ硬い感じの…英語?」
「うん、しかもやっぱこう、王様とか皇帝とか、そういう感じで」
「キング?エンペラー?でもまだぬるいよなぁ」
「皇帝、王様、帝王…帝王!?」
「あ!」
「そうだよ!」
「「カイザー!!」」
「ハモるな」
 亮はノリ突っ込みも出来るらしい。
「やっぱり藤原もそう思う!?カイザー亮!これ改心の出来だよね?!」
 その盛り上がりっぷりは、これまでの短いながら既に濃厚なこのメンバーの学園生活の中でもかなり上位にランクされると亮は思った。
「だよな!俺たちがプレゼントするからこれからは是非そう呼ばれてくれよカイザー」
 吹雪に同じく盛り上がっている藤原は、ほとんど爆笑に近い笑い方だった。
「言ったそばから呼んでいる気がするが」
「だって気に入ったんだもん」
「だってじゃない」
「あっははは、まあまあいいじゃないの亮、これも周りの人たちに対する気遣いという奴さ!ちまたでは実技トップあの方は丸藤だっけ藤原だっけと混乱して自己嫌悪に陥るいたいけな少女もいるという話だからね!」
「なんだそれは」
「ちなみに吹雪はJOIN様で通るから間違えられないらしいよ」
「別に聞いてないがそうか…」
 名前もかぶっていなければ普段のふるまいもまるで違う吹雪とはそりゃあ混同できないだろうという本音は言うまでもない。
 ただ藤原とも、かぶっているのは苗字だけな気はするが。
「僕らの個性をここらではっきりさせるのはあながち無駄ではないという事さ!」
「だからって…」
「だからって心配しなくても、僕にとっては亮は亮だから安心してね☆」
「あ、俺はこれからカイザーでいくから」
「いくな」
 これまたほとんどノリ突っ込みだったが、この時点で既に、これから何を言おうと藤原は本気でこれからそう呼ぶんじゃないかという気がした。
 その証拠に、亮のノリ突っ込みなど藤原はまったく気にしない。
「俺もマッドサイエンティストからもう少し昇格したいな〜」
「さっきも言ってたよねそれ」
 笑いながら吹雪が言う。
「マッドサイエンティストの上かぁ。いつも思うんだけどさ、藤原が読んでる本って、科学って言うより、もう魔法みたいな内容多くない?だから…魔法使いとか…ウィザード?」
「それだよ!俺ウィザードって呼ばれるの目指そうかな」
「…そういう話、少しは恥ずかしいとか思わないのか?」
「え、カイザーって恥ずかしい?」
 まさかぁ、という視線で聞かれて、亮はあさっての方向を見ながら小さくこう答えた。
「…………ちょっとかっこいい」
「だろー!なぁんだやっぱり嬉しいんじゃんカイザー♪」
「言うな…」
 もはや脱力するしかないカイザー亮。
「あ、ねぇねぇ、称号っぽい話ばっかりしてたけどさ、藤原って名前で呼ばれたいとか思わないの?なんかボクらも馴染んじゃって優介とか呼ばないけど」
「…確かに」
「え?うーん…あんまり思わないかな」
「なんで?」
「名前って結局記号だろ?まぁ名前とか愛称のほうがいかにも“親しいです”って感じで分かり易いかもしれないけどさ」
 とそこで、何故か藤原はにやりと笑う。
「それに頼り切ることもないだろ?俺はとりあえず、吹雪と亮が“藤原”って言うときに俺のことしか考えないって言うんなら、それで十分なのさ」
「…聞いた!?亮!これって愛の告白だよね!」
「お前はどうしてそういう言い方しかできないんだ」
「ボクは誇張表現だとは思わないけど」
「それにしたってもう少し言葉を選ぶことくらいできるだろう」
「平たく言ったらボクらしくないじゃないか」
「…まぁ、そうだな」
「分かってくれて嬉しいよ亮♪」
「………」
 このパーソナリティを変えることは不可能なんだろうと思うことは、果たして諦めることなんだろうかなどと、亮はぼんやりと思った。
 そして会話の終わりを告げるかのように、午後の授業の予鈴が鳴り響いた。
「うわっ、もうこんな時間!?」
「予鈴だから、そこまで慌てなくても大丈夫だろう」
「藤原、次こそ寝ないでちゃんと授業聞くんだよ?」
「大丈夫だって、次大徳寺先生の錬金術だろ?俺あれ好きだから」
「もう、好き嫌いしないでちゃんと全部出なきゃ駄目だよ!」
「そういうところは真面目なんだなお前は…」
 あらゆる意味で他の人間が割り込む隙のない三人組の、これが日常だった。

 その三人がまさかあっという間にたった一人になろうとは、誰も予想しなかった。

 後編に続く (オリキャラ注意)

日記版から大改定。妄想止まらぬ天才トリオ。吹雪が授業真面目なのはTF2から(笑)
藤原は藤原で頓着しないに違いないと落ち着きました。あいつ悲しいとか寂しいとか無縁なキャラに見える。どっちみち159話にちょっと出ただけだから、捏造するしかない☆
これで「クラスに“藤原”は1人しか居ないけど“ゆうすけ”は3人いるから」とかいう理由だったら笑う。
吹雪さんが「ブリザードプリンス」を名乗り始めたのが48話なのが実に惜しい。

追伸:後で「ヘル」が追加されるくらいだから「カイザー」は英語扱いかなーと思いましたが語源的にはドイツ語。これどうしたものか。ドイツ語のほうがなんとなくかっこいい気がするよね、英語ほど一般的じゃないから(笑)

 
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