僕らのコードネーム 後編


「ついこの間だろ?藤原がいなくなったの…」
「…それが天上院まで行方不明になったって…」
 藤原と吹雪の二人が立て続けに行方不明になって、オベリスクブルー1年の―いや、学園全体の雰囲気は、暗く落ち込んでいた。
 孤島に建つデュエルアカデミアの学園内で行方不明者が出たのだ、不安にならないわけがない。
「…次、丸藤亮!」
「っ、はい」
 雑談に気を取られて一瞬忘れていたが、今は授業中だった。
 今日は特に変則ルールのない普通のデュエルをするだけの実技の授業で、その単純さがありがたかった。
 まともに働かない頭でも、セオリーだけで闘ってどうにかなる。元々の実力をどうこう言うつもりはない―調子が鈍っているのは、自分だけではないのだから。
「―エヴォリューション・ツイン・バースト!」
「そこまで!」
 手ごたえだけで言えばあっさりと勝ちを拾って、亮は安堵のため息をつく。
 自分も相当参っているのだろうか。
 そんな風に思っていたが、見学席へ戻ろうとすると、今しがた闘ったばかりの相手がこう言った。
「さすがはカイザーだな」
「…え?」
「あ、いや…なんか、ちょっとほっとしたっていうか」
 “カイザー”と呼ばれるのは、あれ以来本気で気に入ったらしい藤原と、たまに吹雪が冗談で使ったときだけで、他の誰かに呼ばれたのは初めてだった。
「天上院と藤原…大丈夫だよな…」
 それを聞いて、二人と仲の良かった自分の様子も心配してくれたらしいと思い当たる。
「…そのうち、帰って来るさ。あいつらのことだ、こっちの心配なんかどこ吹く風で、突然帰ってきて笑顔で“たっだいま〜”とか言うかもしれんな」
「うわ、ありそう」
 亮は本気で言ったわけではないし、相手も本気だとは思っていないだろう。
 お互い弱々しい笑顔だった。
 ただそうでも言って紛らわせたかった。
 自分の不安も―学園の空気も、何もかも。
「なぁ、さっきもう呼んじゃったけど、丸藤のこと、カイザーって呼んでもいいか?」
「別に構わないが…」
 既に藤原には呼ばれまくっていたので、特に違和感は無かった。
「やった、みんなにも宣伝しとく」
「いや、宣伝はどうかと」
「っていうか多分、呼んでもいいらしいって言ったらすぐだと思うぜ?みんなもう使ってるから」
「…そうなのか?」
「うん、噂話で。お前ら三人、どうやったって目立つんだよ」
「…あの二人が目立つのは分かるが」
 亮の自覚のなさに、相手は苦笑した。
「お前だって負けてないって。学年トップで無敗の帝王が目立たないわけないだろ」
「…そういうものか?」
「そうだって。まぁいいや、カイザーも元気出せよ!」
 その言葉を最後に、彼はいつも一緒にいるらしいクラスメイトのところへと帰っていった。
 遠ざかる背中を見て、亮はやっと悟った。
 学園が沈んでいるのは、なにも行方不明者が出たせいだけではない。
(誰にも、あの二人の代わりは務まらない…)
 ただいるだけで、場を明るくするようなエネルギーに満ちた吹雪。
 たとえ直接の関わりを持たずとも、その才知で常に周りを触発する藤原。
 それは天才などという言葉で一括りにできない、華やかな個性だった。
 自分はそれに並ぶ者だと、さっきの彼は言っていたが―
「…“カイザー”、か」
 ―それは、初めて自覚した他人からの期待だった。
 しかもそれは、学園全部の雰囲気を左右しかねないレベルらしい。
「…お前達のほうが得意だろう、こういうのは…」
 この場にいない二人に、亮はそう呟く。
「早く帰ってきてくれ、本当に」
(お前たちがいないと、うまく笑えない)
 当分“楽しい学園生活”は送れそうにないな、などと、一般生徒が聞いたら耳を疑いそうなことを思うカイザーだった。

 080107

というわけで、“カイザー”の由来捏造編でした。
藤原がダークネスの儀式して、吹雪が異世界に飛ばされたのってどれくらい間空いてるんでしょうね??そして吹雪さんだけじゃないはずの行方不明者…特待生寮で次々いなくなってるんですっけ??その辺よく知らないんですが(爆)
亮はこのあと明日香以外親しい人いないんだろうなぁ。しかし明日香は中等部からアカデミアみたいですが、いつ出会ったんだろう。
十代や翔が入学してからの一年は楽しかっただろうと思いますが、やっぱり特に吹雪さん帰ってきた後が“楽しい学園生活”だったの希望(笑)学園祭とか☆
しかし今回は吹雪と同レベルにしたけど、藤原とは本当はどれくらい仲良しだったんだ、亮。仲悪くても驚かないぞ(笑)

 
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