case2:吹雪は大変なものを盗んでいきました

「あ、いたいた、亮〜!一緒にお昼食べよう!」
 そんなことを一年主席丸藤亮に言ってのける人間はただ一人である。
「天上院…」
「吹雪でいいってば。“天上院”ってなんだか距離を感じるよ!ボクは亮ともっと仲良くなりたいのに!」
「別に、苗字で呼ぶくらい普通だろう」
「何言ってるんだ!呼び名は人間関係を端的に表す大事なものだよ?その上“天上院”だなんて、煌びやかな雰囲気で好きではあるけど微妙に荘厳すぎて日常向きじゃないと思うんだよね!だから亮は遠慮なく吹雪って呼んでくれて構わないよ」
「いや、むしろ謹んで天上院と呼ばせてほしい」
「そんなつれないキミも好きだよ☆」
 などと言って、吹雪は亮の向かいの席を陣取る。
 亮はと言えば、それを追い払ったりわざわざ席を変えたりするほど積極的に遠ざけたいわけでもなく。
 結局、毎日二人はランチタイムを共にする仲だったりするわけだが。
「…どうしてわざわざオレに構うんだ?」
「ん?ボクが亮と仲良くなりたいからだけど?」
「いや、だから…なんで」
「うーん、そうだね、強いて言えば…」
 と、なにやらオーバーな思案顔をした後に。
「一人で食べるご飯より二人で食べるご飯のほうがおいしいとは思わない?」
 なにやら優雅な微笑みで言われた亮だったが。
(…それはどういう意味なんだ)
 という感想を持ってしまったりそれを口に出せなかったりするあたりで、自分がかなり深みにはまり始めていることを自覚する。
 目の前で笑う男は、はっきり言って近寄りがたい雰囲気を醸し出す亮に気安く話しかけてくる数少ないどころか下手をすれば唯一の人間で。
 多分彼がいなければ、自分は一人寂しく(それが嫌なわけではないのだが)ランチタイムを過ごしていることは想像に難くないが、彼はそうではないだろう。
 それならば、今のセリフは多分、自分が一人でいるのが放っておけないから、と考えてもいいのだろうが。
「あれ?どしたの?」
「…まぁ、そうかもしれないが」
「でしょ?一人の食事は体にも悪いしね。まぁ食事時に限らず、もし一人が寂しいなんてときがあったら是非ともボクを呼んでくれたまえ!すぐに駆けつけてあげるよ」
(それは本気か冗談かどっちだ)
「それは無いな」
「ひどっ!」
(呼んでもし来れなかったりしたら余計寂しいとか考えないのか?)
 一見いつも通りのテンションで続いていく会話の中、亮の彼への感情は、実のところどんどん微妙な方向に加速していて。
「ううぅ…そんなクールなキミも大好きさ!ボクはこんなことじゃめげないからね!」
 そのセリフが友情なのかどうなのか分かりにくくて困っているなどということは、もちろん亮には言えるはずもなく。
(…誰かコイツを止めてくれ…)
 心の中で呟くしかない亮に、安息は当分訪れそうになかった。

next case:亮は大変なものを盗んでいきました?
コードネームより一ヶ月くらい前に書いた。つくづく私の脳内カオス過ぎる。
このシリーズ全部片想い設定だけど、これ吹雪思わせぶりすぎるかも?(笑)
名前で呼ぶようになるまでに一体どんな心境の変化があったのか。

 
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