「また吹雪の悪い癖が…」 そう呻(うめ)いたときはまだ、まさかあそこまで大事(おおごと)になるとは思っていなかった。 まさか、三幻魔が復活してしまうとは。 いや―結局は十代が倒したのだし、多分、なんとかなったから良し、ということでいいのだろう。多分。 しかし、しかし…。 お互い様フレンズ 「吹雪!」 「うわっ、ごめん!」 亮の剣幕に、吹雪は思わず反射的に謝ってしまった。 (うーん、さすがにやりすぎたよね…万丈目くんの恋心と明日香の青春がかかっていたとはいえ。いや、そのことはもう校長先生たちには謝ったんだけれども…) 「その…悪かったよ…」 「…そうじゃない」 吐き捨てるように言った亮の言葉に、吹雪はまたも反射で聞き返す。 「え?違うの?」 てっきり暴走しまくって人様に迷惑をかけたことだと思っていたのだが。 ぱちくりと目をしばたたかせた吹雪の額に、前髪をかきあげるように亮の手が触れる。 「…お前、ちゃんと眠れているのか?」 「…え」 吹雪の笑顔が固まった。 視線が泳ぎ始める。 「……いや、え、なんで?」 明らかに動揺を隠せていない吹雪に、亮は呆れたように言った。 「お前が周りまで巻き込んで暴走するときは、落ち込んでるか調子が悪いかどっちかだろう」 「え、えーと、そう…だっけ?」 「ああ。…自分じゃ気付かないんだろうが」 「…ごめん…」 「だから…」 「だって、かっこ悪いじゃないか」 亮の言葉を遮って、吹雪は続けた。 亮が何を怒っていたのか、もう分かったから。 「一人で寝るのが怖いとかさ…」 吹雪はいたたまれなさそうに視線をそらした。 実のところ、ダークネスに乗っ取られて以来、吹雪は暗闇が―夜が苦手だった。 だからこそ眠ってしまいたいのに、不安定な精神にはどうにも浅い眠りしか訪れなくて。 誰かに相談しようにも相談相手の心当たりは2年近く心配をかけ続けた相手だったりして、言えないまま一人でなんとかしようと悪戦苦闘していたのだ。 「まぁ、かっこ悪いかもしれないが」 「少しくらい否定してよ!」 「そうなるだけの体験をしてきたんだろう。別に気にすることじゃない」 平然と言い返す亮を見て、何故か吹雪は噴き出した。 「亮ってさぁ、かなり分かり難いよね」 「…いきなりなんだ」 突然普段の調子に戻った吹雪に多少怯(ひる)んでしまう亮。 「いやー、直接会うのは初めてだったけど、弟くんに見事に遠慮されてたよねぇ。直さないと翔くんにますます距離置かれちゃうよ〜?」 「っそんなことは…」 「ないって言い切れる?」 「………」 「あははっ!ま、帰ってきてから落ち着いて話す機会も無かったしね。どう?今夜ボクの部屋に遊びに来ない?キミに人と明るくつきあう方法を伝授しようじゃないか!」 「…お前ももう少し素直に言ったらどうなんだ?」 「生憎とかっこつけたがりなんだ。…迷惑だったらごめん」 補足のように付け足された一言が、ひょっとしたら一番吹雪の素(す)なのかもしれないと亮は思う。 「別に」 亮はくるりと吹雪に背を向けると、こう言った。 「何もできずに心配させられるくらいなら、迷惑をかけられるほうがよほどいい。…気付いてやれなくてすまなかった」 顔を見て言わないあたり、亮はこういうストレートな言い方は照れるのかもしれない、と吹雪は思った。 「ううん、ありがとう」 そう言って吹雪は笑った。 こんなに穏やかな気分は久しぶりだった。 勝手に歩き始める亮を追って、吹雪も歩き出す。 「もっと早く言えばよかったかなぁ」 「まったくだ」 「だ・か・ら!そういう言い方するから翔くん萎縮しちゃうんだよ〜?」 「話を全部翔に持っていくのはやめろ!」 「だって面白いし」 「面白いのか!?」 「やーい亮のブラコン!」 「お前だって十分シスコンだろう!!」 「その通りさ!そんなセリフでボクに勝とうなんて十年早いよ!」 「くっ…」 そういう他愛のない話を、本当に長い間する機会が無かったのだと二人が気付くのは、夜を徹して語り明かしてしまった後だったとさ。 080130 |
そして亮が吹雪の部屋に泊まりこむ日々が続くと(爆) でもこれじゃ60話の暴走は亮が卒業しちゃって寂しいからになりかねませんね!(核爆) いや、でも「額に触れる」を気にしなければちゃんと友情だと思うんだ。 追伸:080501:タイトル微妙に改定。 |