Actual Emotion

 目が覚めたら―というか何故寝てしまっていたのかも分からないのだが、それついてはこの際今考えても無駄だろう―とにかく目が覚めたら両手が頭上で拘束されていた。ご丁寧にベッドの柱にくくりつけてあるらしい、これではここから動けない。
「…何これ」
 ああでも、ベッドごと移動すればいいか。作り付けでもないし。
 まだ頭がはっきりしていないのも手伝って、あまり危機感が湧かない。
「起きた?」
 聞こえた声も状況のわりにいつも通りで、やっぱり危機感が湧かない。
 仰向けの体にのし上がられて、ああなるほどこんなことをするのは、と納得してしまう自分を多少どうかとは思うのだが。
 視線がぶつかる。
「藤原」
 その両手が、頬を包む。
「抵抗しないで」
 顔が近づいてくる。
 別に抵抗する気は起きなかった。
 ただ、触れるだけのキス。
「…ねぇ」
「何?」
「こんなことしちゃ駄目だよ」
「何を」
「これ、外してくれない?」
 そう言って、吹雪は手首に絡まっている布らしきものを示した。
 藤原は嫌そうな顔をしてから、一応分かってくれたのかしぶしぶ解放してくれる。
 ついでに上からも降りてくれたので、普通に起き上がってみる。
 藤原はベッドサイドに腰掛けて背中を向けた。
「藤原」
「何」
「どうして、こんなことをしたんだい?」
 藤原は視線だけで振り向いて、ぶっきらぼうに返す。
「…なんで、そんなこと聞くんだよ」
「分からないから」
「…馬鹿じゃないのか」
「予想ならいくらでも立つよ?でも本当のところを知ってるのは、キミだけだろう?」
「…本当のことを言うとは限らないじゃないか」
「それを判断するのはボクさ」
「屁理屈だ」
「理屈だよ」
 ほとんど駄々っ子のようにすねた口調の藤原に、吹雪は淡々と応答する。
 感情を抑えたその声に、藤原の苛立ちも少しずつ落ち着いていく。
「…俺だって、よく分からない」
 ぽつりと、藤原の言葉が響いた。
「うん」
「自分の意志や行為の理由なんか、全部後付けなんじゃないかって思うときがある」
「うん」
「俺だって、本当のところなんか知らない。…それでもお前は、俺の答えが必要なのか?」
「うん」
 単調な相槌をもう一度繰り返してから、吹雪は言った。
「そうだね、ボクにとっての本当のところ―キミの出した答えがほしい」
 長いような短いような数秒の間の後、意を決したように藤原が振り向く。
 不安げな目線が吹雪を捉える。いやむしろ、切なげな目線と言ったほうがいいのかもしれない。
「…吹雪のことが、好きだ」
 放たれた言葉が、徐々に胸の中に落ちていく。
 じわりと、温かいものがこみ上げてくる。
「…泣くなよ」
 半ば呆れたように、藤原が呟いた。微妙に頬が染まっているあたり、照れ隠しなのかもしれない。
「え、いや、あー…はは、ちょっと待って」
 零れる涙をなんとか拭って、吹雪は言った。
「ありがとう」
「…なんだよそれ」
 答えになってないと言わんばかりの恨みがましそうな目で見てくる。別にこれでも間違いとは言えないはずだが、さすがに応用力がある。
「ボクも、藤原のことが好きだよ」
 無表情で聞いていた藤原が、不意にそっぽを向いた。
 それを見て一言。
「…泣いてる」
「うるさい」
「仕返しー」
「黙れ」
 吹雪はくすりと笑うと、その背中を抱きしめた。
「…だからさ、あんなことしなくていいんだよ。っていうか、しないほうがいいと思わない?」
 腕の中にある温もり。
「…うん」
 自分の体温も、きっと伝わっている。
「まぁでも、結果がどっちでもしちゃいけないと思うけど、ね」
「…分かってるよ」
 ばつが悪そうに呟く声に、吹雪は笑って答えた。
「うん、そうだね」
 分かっていてもできないこと。
 止めようとしても止められないこと。
 それを恋だと思って、何が悪い?
「吹雪」
「何?」
「キスしよう」
 ただ素直に紡がれた言葉に、吹雪はふわりと微笑む。
「いいよ」

 もう一度の口付けは、さっきよりよほど甘く感じた。

 080408(日記)
 080414(加筆修正転載)

おおおお久しぶりにちゃんと完結した!!(爆)
出だしに微妙に逃げがあるのは気にしない方向で。ええもちろん藤原なので一服盛るところからスタートです。さすがにそこは睡眠薬オンリーで。
そしてキス止まりなのが架霜クオリティです。
自分的には藤吹ですが吹藤でもいい気がする。
一言で言おう、百合すぎる。

 
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