Nameless Relation
―healing mode―

 この部屋の大きさも広さもゆったりとしたソファーは好きだった。
 隣に座って二人でカードやデッキをいじりながら、他愛のない話をする。
 いつ頃からか藤原が座る位置が近づいてきていることを、吹雪は知っている。
 だから少しだけ躊躇った後でぽつりと藤原が言った言葉に、そんなに驚きはしなかった。
「…天上院、僕とつきあってって言ったら、どうする?」
 吹雪は、うーん、と少しうなってから、おいで、と手招きする。
 その意図がよく分からないながらも、最後の一歩を詰めきって密着する距離にまで接近してきた藤原を、吹雪はただぎゅっと抱きしめる。
 藤原はそれを、答えだとは思わない。だからこそ吹雪もそうできた。何故なのか自分達は、言葉と行為、両方そろわないと、確信なんて持てないから。
 その手は藤原から離さないまま、顔が見える位置まで体を引き離して、吹雪は言った。
「こうやって抱きしめたりすることを、恋人以外しちゃいけないって言うなら、恋人になってもいい。でも、そうじゃないなら友達でいたい…かな」
 そう言って微笑む吹雪を、藤原はその腕の中から見つめる。
 受け入れられたようなそうでもないような分かりにくいその返事に、藤原はこう返した。
「…キスは、してもいい?」
 少しだけ意外な顔をしてから、吹雪はくすっと笑う。
「いいよ」
 目を閉じた吹雪の唇に、藤原はそっと口づける。
 さらりと触れたぬくもりが、ただ愛しかった。
「…大好き」
 今度は自分から抱きついてきて、肩越しにそう言った藤原の顔は見えないけれど。
「ボクも、藤原のことが好きだよ」
 抱きしめた体は、年齢のわりにずいぶんと華奢だと思う。
(守ってあげたいっていうか…弟って感じだけど)
 その部分は、言わなくてもいいのだろうと思う。
 彼は多分、飢えすぎているから。
 親密な関係をどうやって築いたらいいのか、どこからが信頼していい親密な関係なのか、そもそも親密な関係とはなんなのか、そういったことが見当もつかなくて困惑している。
(分からなくても大丈夫なのにね。境界線を引いて名前をつけるのは、人の勝手だから)
 それでも今日のこれは、藤原が初めて自分から踏み出した一歩なのだ。
 求めている自分をさえ理解できずに、差し伸べられる手を待っていた藤原が、初めて自分から手を伸ばした。
 だから吹雪は、愛しさだけを伝える。大切なのだと。
 求めているのが穏やかなぬくもりだけなのだと、落ち着いた鼓動のリズムで分かるから。
(ボクにも多分傷はあるんだ。何も言わない―言えない藤原を、何も言わずに抱きしめたいくらいには)
 いつ負ったのかも分からない傷だから、自覚なんてないけれど。
(安心して好きだって言って。ボクはいつだって、好きだって返すから)
 それで藤原の傷が癒せるなら、自分の傷も癒える気がした。

 080619

リミパーの副産物。中学時代のつもりだったけど、吹雪の思考が中学生じゃない…。
そもそもこんな関係になれたら、ダークネスの儀式しない(笑)
…あれ、だからこそ亮と吹雪がつきあいだしてダークネス…?
この二人は、百合でリバで突っ走るのが一番幸せな道だと思います。

 
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