Lively Motion  十代×明日香side

 とある喫茶店で、とある男女二人が会話をしていた。
「…それで、今日から一緒に暮らし始めるって?」
「そう」
 聞き役に回っているのは、主に青年―十代のほうだった。対する明日香はと言えば、いつもの勝ち気そうな印象の瞳が、今日は少々曇っているようだ。
「…そんなことで悩んでるなんて、聞いたことなくて、むしろそっちに驚いたわよ。一言くらい言ってくれたっていいのに」
「まぁ吹雪さん、明日香の前じゃ結構かっこつけてるもんなぁ」
 その言葉に、明日香は怪訝そうに眉根を寄せる。
「…ふざけてるの間違いじゃないの?」
 その反応に、十代は苦笑する。
「いや、まぁ、オレも最初はよく分かんなかったけどさ…なんていうか、そういう人じゃないじゃん」
「そういう人って?」
「うまく言えねぇけど…明日香のこと、すっげぇ大事にしてるだろ?心配かけたくないとか、嫌われたくないとか、色々あったんじゃねぇの?」
 思い当る節はあるのか、明日香はその言葉に反論しない。その代わりに、口を尖らせて言った。
「…この程度で嫌うほど、伊達にブラコンやってないわよ」
「ははっ、それはそうだよな」
 多分、高校時代なら絶対に口にしなかったセリフだろう。二重の意味でおかしくて、十代は笑う。
「恋の魔術師なんて言ってたくせに、自分はその恋で悩みまくってるんだから。ほんとにもう…」
「あー、まぁ、意外は意外だったよな。ナチュラルすぎて逆に考えたこと無かったけど、カイザーとつきあってる上に、そのことで悩んでたってのは」
「どこの誰よ、禁断の恋がスリリングでドラマティックとか言ってたのは」
「自分事だから、かえって茶化すしかできなかったんじゃねぇか?他人事(ひとごと)と自分事って、けっこう違うしな」
「夢見すぎなのよ…だからアイドルデュエリストなんてやってられるんでしょうけど」
「あぁいうところ、変わんねぇよな」
 デュエル・アカデミアを卒業してから、吹雪はデュエルこそやめていないものの、プロにはならず本格的にアイドルデビューを果たしてしまった。プロリーグで高みを目指すというよりは、どちらかというとデュエルを通して世界に愛を伝える、というほうが性に合っていたせいだろう。そのあたり、デュエルの楽しさを知ってもらうためにゆくゆくは教師になると言っている明日香にも、なんだかんだで通じるところはあると、十代は思っているのだが。
「まぁ、それも一応決着ついたってことなんだろ?一緒に暮らすってことは」
「そうね、やっと私にも教えてくれたくらいだから。…さすがに、一緒に暮らし始めたら隠しようがないってだけの気もするけど」
「誤魔化しようなくはないだろ、ルームシェアなんか珍しいモンでもないし」
「ルームシェア、ねぇ…」
 そこで言葉を区切って、明日香は空気を切り替える。
「…ねぇ十代、あなた放浪癖があるから分かりにくいけど、一応私と一緒に暮らしてるわよね?」
「ん?あぁ、帰るとこつったら、明日香の部屋だな」
「それで、こういう言い方もなんだけど…一緒に寝たりもしてるわよね?」
「そうだな」
「そういうの、世間では多分同棲って言うんだけど、分かってる?」
「…あぁ、言われてみればそうだな」
 考えたことなかったけど。けろっと即答する十代に、明日香は頭が痛い。
(これだから、言えないのよ…)
 憂鬱そうに、明日香は頬杖をついた。
 ため息までつこうとした、そのとき。
「…じゃあ、結婚するか?」
「…っ!?」
 さっきまでとまったく同じ調子で口にされた言葉に、明日香は耳を疑った。
「ちょ、ちょっと十代、意味わかって言ってるの!?」
「あぁ。っていうか、明日香が考えてること、なんとなく分かったぜ?吹雪さんに花嫁姿見せてやりたいとか、そういうんじゃねぇの?」
 実のところ大正解だった。急に核心を突いてくる十代に、明日香は途端にしどろもどろになる。
「その、いや、そうなんだけど…」
「そういうの、吹雪さん喜びそうだもんな。いいぜ?オレで良ければ」
 そう言って笑う十代に、妙な気負いや気遣いは無い。それが何故なのか分からなくて、話を振ったはずの明日香のほうが逆に戸惑ってしまう。
「良ければって…十代はいいの?…なんていうか、そういうの嫌いかと思ってたんだけど」
 なにせ、卒業してからほとんど当てもなく世界中を旅している十代なのだ。自分のところに帰って来てくれるだけで十分だと思っていたし、吹雪の事がなければ、そんな風に分かり易い関係がほしいとも思わなかったのだが。
「う〜ん…別に、嫌いなわけじゃないぜ。ただ、普通に家にいられるかって言われたら自信ねぇから、むしろそこんとこ悪ぃなって思うけど。結婚するんだったら明日香がいいなって思うくらいには、オレは明日香のこと好きだぜ?」
 突然のストレートな告白に、明日香は顔が赤らむのを感じた。どうも自分が思っていた以上に、自分も十代のことが好きらしい。
「…私も、十代がいいのよ。あなたがいないのには慣れてるから、別にいいわよ。どこかで浮気してるんじゃなければね」
「もちろん、それは約束するぜ!」
「本当かしら」
 浮気の基準が怪しい気がする、と思ったが、ここで突っ込む気にはなれなかった。多分それくらいには、自分は彼に溺れているのだろう。
「私も、十代のことが好きよ。だから、結婚して」
「ああ、いいぜ」
 そう言って笑いあう。
 ムードも何もあったものではないプロポーズだったが、それが自分達らしいなと、明日香は苦笑した。
「それじゃ、早速で悪いけど、当分はどこにも行かないでね?」
「げっ、今いいって言ったところじゃねぇか…」
「仕方ないでしょ、目的が結婚式なんだから。私だけに準備させたら張り倒すわよ?」
「冗談じゃないから怖いよな…」
「それに…十代だって、ご両親と再会するチャンスなんじゃないの?ずっと会ってないんでしょ?」
「え…あ、そう…だな」
 元々仕事で留守がちな両親とは、全寮制のアカデミアに入って以来、連絡すら取っていなかった。それに加えて、在学中に判明したユベルの記憶隠蔽ことなどもあって、少々複雑だったのも確かだ。要するに、会ったところで何をどう話していいのか、さっぱり分からない。
 このあたりの件になると、十代は途端に頼りなげな顔をする。
「…まぁ、別に…喧嘩してるってわけでもないしな。そろそろ、なんか、話したりしたほうが…いいのかもしれないな」
 気を取り直そうとしている十代の後押しをするように、明日香は十代の手をその手で包みこむようにして言った。
「あなたなら大丈夫よ。一緒に、幸せになりましょう」
「…ありがとう、明日香」
 二人は互いに微笑むと、喫茶店の片隅で、こっそりとささやかな口付けを交わした。

 080629

十明日sideと言いつつ、本題のはずの亮吹sideは書いてないっていう。
タイトル「Lively Motion」は、「セイバーマリオネットJtoX」のEDから。お色気満載作品ですが、原作ともども、結構色々考えさせられる話です。あの歌詞思い出して亮吹をこの路線で書けないかと思ったんですが、そこから派生した十明日のほうがぱぱっと書けてしまいました…。
色々詰め込んだらえらいカオスな話になりました。あからさまに鍵っ子な十代といい、GXは親の影が希薄すぎる。天上院兄妹にしても、実は孤児で相続した遺産で生活してるとかいう設定でも、私は驚きません…。

 
BACK