放 課 後 保 健 室

■Episode1 片思い
 
「…失礼しまーす」
「あら、天上院くん。いらっしゃい」
 ぺこりと軽く頭を下げて、吹雪は保健室のドアを閉めた。
 特に怪我をしたわけでも、気分が悪いわけでもない。
 ただ時折ふらりと、他愛もない話をしにくるのだ。
 他愛もない―何気ない話と、隠すように織り込まれていく、恋の話。
「…こういうことって、よくあるんですか?」
「ふふっ、教えてあげたいけど…守秘義務なんかもあったりして」
 それはこのテの話題を隠すほど知っているということであるからして。
「よくあるんだ…」
「天上院くん?人は人、キミはキミ、よ」
「…わかってますよ」
 そう言いつつ心のもやもやが取れない以上、多分分かっていないんだろうと、吹雪は自分で思う。
 人より目立つのが好きで、人と違うのが自慢だったくせに、いざ人と違う恋をすれば不安になって、そのくせ同じだと言われても釈然としない。
 こんなにも揺れることがあろうとは、正直思っていなかった。
「……はぁ」
 ため息をついて、吹雪は立ち上がった。
「また来ます」
「ええ、いつでもどうぞ」
 弱った微笑みに、返されるのは大人の微笑み。
 落ち着いたその表情は、いつも少しだけ安心をくれた。
080325

■Episode2 失恋
 
「本当に好きだったのね」
 過去形で紡がれた言葉が、不思議なくらいにすとんと胸に落ちた。
「…はい」
 亮のことは、もちろん今でも好きではあったけれど、はっきりと失恋したと思ったあの瞬間から、何かが薄れていくのを感じていた。それは痛みだったかもしれないし、恋そのものなのかもしれなかった。
「…先生は、何も尋(き)かないんですね」
 一瞬の間を置いて、答えが返ってくる。
「それが仕事だから」
 冷たく響きそうなその言葉を、別に冷たいとは思わなかった。
「私から踏み込むわけにはいかないの」
 立場とか、役目とか、そんなものから逃げる気も抗う気もない。それが自分の一部だと理解しているから。
「…そうですね」
 その感覚には覚えがあって、吹雪は呟いた。
「初めてね?」
「え?」
「キミが私のことを気にしたの」
「…そう、ですね」
 自分の行動を、指摘されて気づく。それは繰り返したステップ。
 それが今までとは違う方向へと向かったのは、多分進み始めた証拠なんだろうと思えた。
 いつもと同じ、不思議と穏やかな沈黙が流れて、吹雪は立ち上がった。
「…ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして」
 部屋から出るときふと、思いついて言った。
「鮎川先生は、素敵な女性ですね」
「あら、ありがとう」
 いつもの大人の微笑みだった。
080325

■Episode3 卒業
 
「卒業おめでとう、天上院くん」
「ありがとうございます」
 その言葉を素直に受け取れるくらいには、自分も大人になれたのだろう。
「もう、保健室では会えませんね」
「寂しくなるわ」
「本当に」
 社交辞令ではないことくらい分かっている。けれどそこに含みを持たせているかどうかは分からない。
 だから、いつでもこれは賭けだ。
 携帯電話を取り出して、ウィンク付きでこう言った。
「―だから今度は、プライベートでお誘いしてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
 にっこりと、微笑みが返ってきた。
 080730


日記に殴り書いた吹雪→亮で吹雪→鮎川先生に吹雪×鮎川先生を書き下ろしてみた。しかし吹雪がどうやって失恋したのかは謎のまま…亮が誰かとつきあい始めたんですかねー?それとも告白して玉砕?
カウンセリングの手法は適当です、信じないでください。そもそもカウンセラーがそう簡単にクライアントを好きになっちゃいかんだろう(苦笑)
アニメ本編、吹雪の彼女にするなら鮎川先生がイチオシだったりします。
思いついたきっかけはこの二人がTF2の日常パートでタッグ組んでたせいですけど(笑)

 
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