グッドナイト・スイートハーツ


 それはデュエル・アカデミアに入学したときのことだ。
 中等部の寮は二人部屋で、吹雪と藤原が知り合ったのは、ここで同室になったからだった。
 二段ベッドが備え付けてあって、どっちがどっちを使うかでこんな会話があった。
「どっちがいい?」
「…上」
 聞いた吹雪も、どちらかと言うと上が良かった。けれど吹雪には妹がいたせいか、譲るのは決して嫌いではなくて、だから場合によってはルームメイトとうまくやっていく最初のハードルになったりするこの問題は、二人にとって特に問題ではなかった。

 * * *

 ある夜。
 吹雪は夜中に目を覚ました。
 それは偶然だった。
 かすかに、押し殺すように、すすり泣く声が聞こえた。
 藤原が泣いていた。
 放っておくこともできずに、吹雪はベッド脇のはしごから藤原の様子をうかがう。
「…泣いてるのかい?」
「…っ」
 心配と戸惑いが入り混じった質問。吹雪は戸惑っていた。
 普段の藤原は、決して弱々しくも、感傷的でもない。
「……泣いてないよ」
 けれどその返答は、強がりと見なせる程度に、意地がにじんでいた。
「でも…」
「泣いてないから。…まだ夜中だろ、おやすみ」
 それ以上の追求を完全にシャットアウトされて、その夜吹雪は諦めるしかなかった。
 
 藤原が結構な頻度で泣いていることに気づいたのは、それから暫くたってからのことだった。

 * * *

「あのさー…藤原、今夜、一緒に寝てくれない?」
「…何言ってんだお前」
 呆れた顔で藤原は返した。
「いや、それが…さっきわりと怖い話見ただろう?一人じゃ寝れそうになくて」
 苦笑する吹雪が言っていることは嘘ではない。さっきテレビで見た怪談特集のせいで、実は本気で怖かった。
 けれどそれを、利用しようと思ったのも確かだ。
「じゃああんなの見るなよ。お前がつけたんだろ」
「それは申し訳ない。次からは気をつけるけどさ、ほら、今日はもう見ちゃったわけで…お願い!」
 両手を合わせて拝んで見せる吹雪に、藤原はかなり迷っていた。
 それはそうだろう。あの日以来吹雪は触れてこそいないが、藤原は毎晩とまでは行かずとも、数日に一度は泣いている。本人がそれを都合悪く思わないはずがない。
 けれどその一方で、友人の切実な頼みを断りきれない程度に、藤原はお人好しだった。
「…今日だけだからな」

 * * *

「…で、なんで手までつなぐ必要があるんだよ」
「せっかくだから」
「いや、意味わかんないし」
「妹の明日香と、よくこうやって二人で寝たんだよ。ボクんちの両親、仕事でしょっちゅう留守でさぁ。兄妹二人身を寄せ合って生きていたという…」
「…それほんと嘘どっち?」
「ちょ、疑わないでよ!こんないい話を!」
「いや、だからこそというか…想像つかないし」
「うんうん、ボクの努力の賜物だね!それなら仕方ない」
「自分で言うなよ、そういうこと」
「自分以外に誰が言うのさ。自分を中から評価できるのは自分だけだよ」
「…お前たまにすごいよな」
「………」
「なんでそこで黙るんだよ」
「いや、意外だったから」
「何が」
「キミがボクのことそう見てたのかと」
「……悪いかよ」
「そんなわけないよ。ありがとう」
「…礼言われるようなこと、言ってない」
「ボクは嬉しかったよ」
「………」
「おやすみ、藤原…」
「…おやすみ」

 その夜藤原は泣かなかった。
 ただ安らかな眠りが、訪れていた。

 * * *

 それから数日後。またも藤原が泣いていることに気づいて、吹雪は若干の強硬手段に出ることにした。
 藤原の布団に勝手にもぐりこんだのである。
 背中合わせに横になる。
 当然藤原は気づく。
 が、泣き顔を見せたくないせいか、口だけで抗議する。
「自分のところで寝ろよ」
「いやー、言っただろう?一人じゃ怖くてね」
「いつの話だよ」
「あれから毎晩眠れないのさ。だからキミの力を…」
「…いい加減にしろよ」
 その声は、怒気を孕んでいた。
「嘘つくなよ」
 今回は完全に嘘だ。だからその抗議は正しい。
 けれど、フェアじゃない。
「…じゃあ藤原も。嘘、つかないでよ」
「何を」
「泣いてないって。嘘だろう?」
「………」
「別に、理由とか言いたくないなら詮索はしないよ。だけどボクは、気になるんだ。せめて泣いてるって事実くらい、認めたっていいじゃないか」
「それとこれとは」
「別じゃないと思うけど」
「…お前には関係ないだろ」
「ボクが怖がってたのだって、藤原には関係ないじゃないか」
 藤原がしたことは、吹雪と同じ理由。だから全部、藤原に返っていく。
「……泣いてたから、どうだっていうんだよ」
「二人でいたら大丈夫なら、ボクは一緒にいたい」
「…大丈夫かどうかなんか、分かんないよ」
「じゃあ、試してみればいいんじゃない?」
「…もし駄目だったら?」
「それはそのとき考えるさ。そう急ぐこともないだろう?」
「……馬鹿だろ、お前」
「そんなことないと思うけどなぁ」
「……こっち見るなよ。絶対だからな」
「うん。わかった」
「…っ」
「…おやすみ、藤原」
 それから少しだけ、藤原は声を上げて泣いた。
 そしてそれから、ゆっくりと眠りについた。

 090120

+++

どっちがどっち?知らねぇよ!もう友情でよくね?これ友情だよ。そんな理由でノーマル。
あとそんなしょっちゅう泣かれたら素で寝れません。藤原も分かってるから努力してるんだけど。

ふじわらとふぶきは、ちゅうがくせいが、おいしいとおもう。

高校に入ってそれぞれ一人部屋になって「吹:大丈夫?」「藤:大丈夫大丈夫!(えがお)(ごめん嘘大丈夫じゃない)」二人部屋のアドバンテージを失ってそれ以上突っ込めない吹雪、ダークネース!な藤原みたいな。うちの藤原は吹雪と二人だと意地っ張りで怒りっぽいです。ツッコミ属性。

タイトルは「スパイラル〜推理の絆〜」サブタイ経由の孫引きなんで「グッドナイト、スイートハーツ」とは一切関係ありません!(爆)語感でつけたからスパイラルとも関係ない\(^o^)/

 
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