多分それは、いつもの放課後。
 教室には二人だけだった。
 どうしてだか、無言だった。
 遠くで誰かを呼ぶ声がする。
 視界の外で、こんな静かな空間が生まれていることを、彼はきっと知らない。
「…ねぇ」
 沈黙を破った呼びかけに、亮は普段どおり答えた。
「なんだ?」
「何が正しくて何が悪いのかとか、考えたことない?」
 別にただ、普通の、他愛も無い質問。
「…正しいと悪いじゃ、対応してないぞ」
「…へっ?」
 予想外なところに突っ込まれて、吹雪は間抜けな声を出す。
 亮は笑った。
「正しくて悪いことも、間違ってて良いことも、下手をすれば正しくて悪くて間違ってて良いことだって、あるんじゃないか」
 それはこの上なく誠実に、吹雪の問いに答えていて。
「なぞなぞみたいだね」
「そうだな」
 いつも通りに笑った。
「意外だね、結構柔軟なんだ?」
「意外か?」
「だって、どう見たって頭硬そうじゃないか、キミ」
「どうだろうな。臆病なだけかもしれんぞ。裏ではとんでもないことを考えてるのに、怖くて実行に移せないような」
「とんでもないことって例えば?」
 流れに、乗っていたつもりだった。
 否、乗っていたのだろう、塞き止めたのは彼だ。
 いつも通りの微笑みが、不意に終わった。
 間違い探しと同じくらいに、微妙な違い。
 それでもさっきまでの笑顔は、どこにも見当たらない。
 その右手が、何かをかき分けるように、ゆっくりと空中を進む。
 迷ってはいなかった、きっと。
 亮の指先が、吹雪の頬に触れた。
「…実行していいのか?」
 本気の瞳で聞かれて、冗談なんか言えない。
 半ば圧されるような気持ちで、吹雪は答えた。
「…いいよ」
 亮の顔が近づいてくる。
 見たくないのか礼儀だとでも思ったのか、自分でもよく分からないまま瞳を閉じた。
 唇に吐息がかかる。
 それと同じ温かさが、もっと確かな感触でぶつかる。
 同じだけの、熱と弾力が触れあっていた。
 亮の左手が、吹雪の首筋をなぞった。
「…っ」
 いつの間にか亮の腕は、吹雪を完全に捕らえていた。
 されるがままというのは、正直癪で。
 亮の両肩に手を置いて、そのまま滑らせるように抱きしめた。
 その分だけ、重なる唇の密度が増す。
 戸惑いと手加減が消えていく。
 強く抱きしめあったまま、二人は唇を貪りあった。
「……っは…」
 長い、長い口づけの後。
 零れた吐息は、熱く色づいて。
 最初と同じだけの距離を、もう空けられない。
 亮にもたれかかると、今度はそっと抱きしめてくれた。
 正しくて悪くて間違ってて良いこと。
「……ほんと、そんな感じだね…」
 抱きしめあう二人を、鮮やかな夕陽が照らしていた。

love a riddle


(好きだなんて単純な言葉、難しすぎて使えやしない)



090126


…えぇと、自分で分析するに、好きサイト様(複数)の影響受けまくりの創作です(土下座)
これアカデミアじゃないよね、多分普通の高校だよね。(笑)
うちの攻め亮は頭のネジ一本外れてる気がする(酷い言い草)
いや、すみません、こういう雰囲気の話も好きです。

 
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