亮に踏みつけられたジェネックスの参加メダル。
 それを拾い上げた吹雪が感じていたのは、憤りでも困惑でもない。
 その嘲笑が、決して自分に向けられたものではなかったから。
 だから吹雪は亮の寝泊りする部屋まで押しかけて―危うく厄介払いされそうになっている最中だった。


 とどかない子守歌

 
「別に、何も詮索するつもりはないよ。だけど分かってるのかい?今キミがどんな顔をしてるのか」
「…分かってるさ」
 強がりでも虚勢でもなく、多分本気で分かっているのだろう。ただ静かに亮は告げる。
 だから吹雪は、亮を抱きしめた。
「…っ離せ!」
「嫌だよ…!」
「吹雪、オレは…っ」
 何を言いたいのか聞くまでもないと、吹雪はその唇を塞ぐ。気のせいなのかどうかやけに乾いたその感触に、だからこそ口付けることがやめられない。
「…見てられない。それが理由じゃ駄目なのかい?一瞬でもいいからそんな顔をやめてほしいって、それだけなんだよ」
 その言葉に亮が見せたのは―傷ついた顔だった。
「…無理なんだ」
「…亮」
「それこそお前も、分かってるんだろう。誰かに、どうにかしてもらえるようなものじゃない。気休めならいらない。誤魔化してやり過ごせるくらいなら…オレは、こんな風になってない」
「……すまない」
 それは多分、それを言わせてしまったことへの謝罪だった。
 何も出来ないもどかしさに負けて動いて、結局はそれを確かめることになっただけ。
 それ以上、もう何も言えない。
 当たり前だ。最初から、言えることなどなかったのだから。
「…もう帰れ。今のオレは…お前と共にはいられない」
 そう突き放す亮の表情は、決して冷たくはない。ただ悲しみを受け止める姿が辛かった。その顔をさせたのが自分だったから。
 それでも亮がくれた言葉を、そのままにして帰るわけにはいかなくて、あがくように言葉を探す。
「…今じゃなきゃ、いいの?」
 ほとんど揚げ足取りだと思いながら、吹雪はそう言った。
「それは…」
「今のキミが駄目でも、いつかはそうじゃないって、…そういうことだろう、今のは」
「………」
 責めるような言い方しかできなくても、下手をすればさらに追い詰めるだけかもしれなくても、せっかく見つけた糸口を手放したくはなかった。
「ごめん、こんなこと言って。…だけど、ボクは、絶対待ってるから」
 忘れないで。
 最後まで顔を見て言えなかったのは、正直泣きそうだったからだ。
 これ以上慰められるわけにはいかなくて、今度こそ吹雪はその場を後にした。
(ほんとにもう、最悪だよ。ボクの馬鹿)


081219
090129(修正転載)


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イメージソングは「ら・ら・ば・い〜優しく抱かせて〜」です。魔法騎士レイアースから。
なんという亮に捧げたい歌、とか思ったんですが、亮は優しく抱かせてくれませんでした(…)
歌は女性曲なのにすごく吹亮っぽいです。すごく吹亮です。
でも女性曲なので、亮吹と言い張りたくなる自分もいます(…)

「詮索しないけどそばにいたい」が吹雪の口癖と化してる…なんだこれ…。

 
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