膠着状態 Before Breaking
珍しく一人でいる吹雪に、亮は声をかけた。 「今日は片割れはどうした?」 「え、藤原のこと?」 「ああ」 取り巻きのようなファンこそ多い吹雪だが、普段からそれなりに浮いている(目立っている)自分たちの同類には違いなく、友達という意味で近づいてくる人間は実のところそうはいない。 必然的に、彼のそばにいる人間は不特定多数ではなく特定の人間になる。 「今日はサボってるみたいだけど…まぁ、研究に没頭したらいつものことではあるから」 「そうか」 藤原が授業をサボるのは珍しいことではない。彼にとってそこで学ぶべきことは、他の生徒に比べてあまりにも少なすぎるのだろう。 「…それにしても、“片割れ”ってちょっと失礼じゃない?」 なんだか人格否定してるみたいに聞こえるよ。 苦言を呈する吹雪に、亮は素直に謝った。 「悪かった」 ちょっとした皮肉だ。 心の中でそう付け加える。 反省していないわけでもないが、素直に聞き入れるには少々複雑だった。 納得してくれたのか、満足げな笑顔で吹雪が言った。 「その素直さに免じて許してあげるよ!でも珍しいね、どうかした?」 藤原を気にした次の瞬間にはこちらを見ている。 だから皮肉なんだと、そう思いながら彼の髪の一房をすくった。 「…亮?」 「デッキを調整していたら、気がついたら朝になっていてな。少し頭がおかしい」 「ナチュラルハイってやつかい?キミでもそんなことあるんだね」 「ああ」 「夢中になるのもいいけど、徹夜は健康にも美容にもよくないよ?今日はちゃんと寝たほうがいいんじゃないかな」 「ああ、気をつける」 * * * その笑顔を、自分だけのものにしたいと思いはじめている。 けれどもしそうなれば、片割れのようによりそっているあいつは壊れるだろう。 吹雪は自分の価値を知らない。 藤原にとって、自分がどれだけ重要な存在なのか。 あいつがどれだけの脆さを隠しているか。 知らないまま彼を支えているのは、彼の天性のなせる業だろう。 藤原がどうなろうと知ったことではないと、そう言うのは容易いけれど。 そのとき吹雪が喜ばないことは、分かりすぎるほど分かっていて。 同時にそんなことを考える自分も、そう好きではなかったから。 「…面倒だな、まったく…」 自分の恋心について、亮はそんな評価しか下すことができなかった。 090129(日記) 090204(修正転載) +++ この吹雪脈なさすぎ(笑) |