ただいま修行中! 後編
走り出したものの、もちろん既にレイはただ「追いかける」と言えるような圏内にはおらず、その行き先を考えながら探すことになる。 (こういうとき内にこもりそうな感じしないよな…寮とかで誰かに愚痴ってたらおしまいだけど、できれば外にいてくれないかな…) そんな期待半分で向かった灯台だったが、運良く本気でそこにいてくれた。 あと十数メートルというあたりで、藤原は声をかけた。 「…レイちゃん!」 その声にこっちに顔を上げたあと、怒った顔でぷいっとそっぽを向かれて。 何故か、かちんときた。 「―っレイ!」 「っな、何よ!」 反射で言い返したレイの声には、動揺を隠すための牽制の色が濃かった。 さっきとは違う怒気のせいなのか、呼び捨てのせいなのかは分からないが。 ともあれこちらを向いてくれたのだから目的は達成されている。 隣と言える距離まで近づいて、藤原は幾分調子を和らげて言った。 「お前な…少しは人の話聞けよ」 「だって、人の親切無碍(むげ)にしたのそっちじゃない!」 「それは悪かったって、言う暇もくれなかったじゃないか」 「そ、そうだけど…っ」 最初から半分以上意地だけで言っているレイには、必要以上に怒る気の無い藤原の相手は分が悪い。 ただ藤原は、その意地が気に入らないとは実はそんなに思っていない。 「驚かせて悪かったよ。昔の反動で、まだちょっと感情系のコントロールがうまくできないんだ。レイが心配するようなことないから」 「…昔の反動って?」 まだ微妙に口を尖らせつつも聞いてくるレイには、隠すようなことはしたくなかった。 「誰かと仲良くなっても、いつか忘れられるんじゃないかって怖かったのに、それを全部誰にも言えなかったんだ。オレは人の絆を、信じることができなかったから」 「…それとあれ、どうつながるの?」 もう機嫌は直っているらしいが、レイは追求をやめてくれない。 誤魔化した内容を言うしかないのか。 (…かっこ悪いから言いたくないんだけどな…) 「…レイにもいつか忘れられたらやだなって、思うより先に泣いてたんだよ」 それこそばつの悪い気分で、ついつい顔を逸らしつつ藤原は白状した。 きょとん、としてから、レイはこう言った。 「忘れたりしないよ!」 大丈夫!とでも言うように力説するレイに、藤原は思わず吹き出していた。 「なんで笑うのー!?」 「いや、すまない、ありがとう」 そんな彼女の前だから泣いたんだろうと、本当はもう知っている。 「ちゃんと分かってるよ。だからこそ嬉しくて、そういう意味でも泣けるんだ」 誰にもきちんと開いたことの無かった藤原の心を、吹雪の次に開いてみせたのがレイだった。 おせっかいにも似た素朴で深い優しさが、本当は一番必要だった。 「レイのそういうところ、好きだよ」 「えっ…」 さらっと藤原の口から出たセリフに、レイの顔がさっきとは別の意味で赤く染まる。 「………」 その反応に、藤原もまたリアクションが取れなくなる。 数秒沈黙。 ぼそりと、レイがそれを破った。 「…呼び捨て…」 「…え?」 「呼び捨て、なんで、ですか」 突然ですますに変わった口調に指摘されて、最初に呼び捨てにしたあの瞬間からさっきまで、切れたせいで実はずっとハイだったのだということに、藤原はようやく思い至る。 と、そこで正気に戻ってしまい、それに答えるのがさらに難しくなってしまう。 さっきまでとは打って変わってかなりの勇気を振り絞って、藤原は言った。 「…尊敬してるから…だよ」 「…え?」 「レイ…は、すごいなって、思ってるから。ちゃんとか言ったら、下に見てるみたいで逆に失礼かなって、少し思ってた」 「…そう、ですか」 気まずい。 自分にしては大胆な発言を連発した自覚があるせいで、藤原はなんとも言えない。 「…さっきの…」 掠れそうな声の先を、藤原はひたすら待つ。 「…好き、って…どういう、意味、ですか」 そこに来たかと、内心頭を抱える。 正直に言おう、言うつもりは無かった。というより、言ってしまえるほどのところに来ているとは自覚していなかった。 無かったのだが、言ってしまったものは仕方が無い。 「…そのままだよ。レイのこと、好きなんだ」 腹をくくってそう告げると、レイの顔がますます赤くなった気がする。 それが、爆発した。 「〜〜〜っ!悔しい!」 「…は?」 予想外のセリフに間抜けな声を出す。 真っ赤になって叫んだレイは怒っているようにも見えた。 けれどその目にはほんの少し涙が光っていて、自分の涙がうつったかと場違いなことを思った。 頭の中をどんな思考が駆け巡っているのか、随分と雄弁な目で睨んだあとで、レイは一言こう言った。 「…私も、好き」 挑むように、自分を見つめてくる瞳。 届いた言葉に心臓がはねて。 頭のネジはもう一度飛んだらしい。 華奢な体を、ぎゅっと抱きしめていた。 * * * ―さっきの、悔しいってどういう意味だったんだ? ―…私から言いたかったの!先越されたら悔しいじゃない。ほんとは私待つ女じゃないんだから! ―そっか、ごめん。 ―なんでそこで謝るのよ! ―いや…だって、先に言いたかったんだろ? ―〜っバカ!!言われて嬉しいのも悔しいの! ―嬉しいの? ―…聞かないでよ〜…調子狂う…。 ―って言われてもな…。 ―……こんな私、嫌いじゃない?…幻滅しない? ―しないよ。なんでそんなこと思うんだ? ―だって、いつもと全然違うから…。 ―ああ…お前、オレがどこ尊敬してるか分かってないな? ―…どこなの? ―感情表現が素直なところだよ。調子狂ったのだってそのまま教えてくれてるんだから、別にいつもと違わないさ。 ―……〜〜やっぱり悔しい!優介のバカっ! ―って、さっきからバカはないだろバカは! ―バカバカバカバカ〜〜!! 090218 |
………す み ま せ ん で し た !(笑) レイが藤原を好きになる場合いつも(亮、十代)とタイプ違うから調子狂えばいいのにって思ってたわけではないんですが気がついたらこうなりました。藤原が無自覚タラシ。無自覚タラシはノマカプにおける私の十八番です(爆) 藤原の下の名前呼び捨てさせるならレイが一番似合うと本気で思います。 この二人は遠慮なく少女漫画できて楽しいです(笑) |