君がいる世界で僕は
―Original Sin―



2 パラレルワールド

 二人の吹雪が対峙していた。
 闇の力にすべてを委ねたダークネス吹雪、絆を信じるデュエル・アカデミアの天上院吹雪。

 ―すべての知性がひとつになり、すべての戦術、すべての力がひとつになる。そのとき人は、初めて最強となるのだ!
 ―くだらない!
 ―何?
 ―くだらないと言ったんだ!すべての力を得る?お前の力は虚無の炎だ。人の無限の可能性は、そんなことのためにあるんじゃない!

「なんなんだ…これは」
 呟く藤原は、その世界を空から俯瞰するように見ている。
 その傍らで、吹雪が藤原を支えていた。
「ダークネスの力で覗き見したパラレルワールド。あったかもしれない無限の世界の中のひとつ、キミがいない世界だ。この世界じゃ、ダークネスの仮面を作りだしたのはボク自身だ」
「どういうことなんだ、吹雪!?」
「言ったのはキミだろう?ボクの本質はダークネスだと。その言葉が現実になっている世界、それだけのことさ。そしてこのボクは、ある意味でボクと何も違わない」
「そんな…」
「もう少し見てて」

 ―私はお前だ。お前には最初から、ダークネスを否定することはできない。
 ―分かってるさ。だからこそボクは否定する。キミこそ、その意味が分からないのかい?
 ―何?
 ―ボクはもう知っている。キミが何者なのか、ボクが何を考えていたのか。だからこうするんだ…すまない、レッドアイズ。トラップ発動、レッドアイズ・バーン!
 ―馬鹿な!?
 ―これがボクの選ぶ未来だよ。キミはボクだ、そこからもう逃げない。ボクが否定したままの、力に惹かれた自分ごと、ボクは自分のすべてを肯定してみせる。闇に堕ちるのは一人でいい!
 ―やめろぉぉぉ!!

「言ってることは、キミと闘ったときと本質的には違わない。だからこの後の展開も同じなんだ。…後っていうか、ここまではキミの視点で見たときしか無いんだけどさ」

 ―これがお前の…私の望む結末だと…。
 ―ボクは負けない。希望を捨てない!ひとりで立ってるお前になんか、ボクは屈したりしない!
 ―フッ…ハハハ!!
 ―!?
 ―消えろ。お前のような弱い者は…必要ない!

「目障りだ、消えろ」
「…っ」
「不思議だよね、勝ったら一体化しちゃうのにさ。目障りなやつと一体化しようだなんて」
「…何が言いたいんだよ」
「この時点で、ボクとダークネスの逆転は始まってるってことさ」

 ―最後の戦いを始めようか。ダークネスこそが唯一最強。それを証明するために。

「日本語は正しく使ったほうがいいね。唯一に上も下も無いだろうに」
「…言葉遊びだろ」
「言葉遊びは、案外あなどれないんだよ」

 ―まだだ十代。この戦いは、お前が最後に立っていればいいんだ。絆が残っていれば、オレ達で奴を倒すことができる。だから、諦めるな…。
 ―フッ…あくまで私を倒したいか。ならそれでもいい、お前たちの最高の戦術を見せてみろ。それを倒したとき、私は真に最強の存在となる!

 不意に、十代が息をついた。

 ―いい加減、その仮面外しちまえよ、吹雪さん。

 その言葉に、ダークネスの動きが固まる。

 ―…参ったな。

 そしてゆっくりと、その仮面を外した。

 ―気づいていたのかい?

 そこにあったのは、正真正銘、天上院吹雪の苦笑だった。

 ―デュエルしてれば分かるさ。世界の命運がかかってるっていうのに…オレはこのデュエルが、楽しくて仕方ない。世界中全部のデュエリストと闘ってるような、そんな感じがするんだ。
 ―その通りさ。今ボクの中には、ダークネスが取り込んだ全ての人の力がある。取り戻すにはボクに全力を出させることだ。それが解放の方法だよ。来い、十代くん!
 ―ああ、覚悟しろよな!


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