LOVE A RIDDLE |
レイ、剣山、藤原、という一見不思議なとりあわせがグループ行動をしている率が高いのは、去年卒業した十代や吹雪たちの影響だろう。 彼らが卒業してから、そろそろ一年になる。 「十代のアニキ、今頃何してるドン…」 自らも卒業を控えた剣山の呟きは、誰にも拾われなかった。 「…って、誰も相手してくれないザウルス!?」 振ってきた剣山に、藤原はこう答える。 「って言っても…オレそんなに十代くんのこと知らないし」 ダークネスとして闘ったという事実のおかげで印象だけは強いのだが、その後ダークネスの影響で一時的に寝込む羽目になり、まともに動けるようになった頃には既にアカデミアを去っていた彼のことを、藤原は直接にはほとんど知らない。 「それはそうザウルス…でも、レイちゃんまで相手してくれないなんて、どうしたドン?」 「えっ…」 話を振られて、レイは言葉に詰まる。 確かに、真っ先に反応してもいいはずだった―少なくとも、一年前までは。 気を取り直すように笑って、レイは言った。 「…十代だったら、きっと今頃デュエルしてるよ!だってそれしかないもん」 その言葉に、剣山は大きく頷く。 「違いないドン!卒業したらプロデュエルの傍ら、十代のアニキを探すのもいいザウルス!」 「そうだね」 複雑に笑うレイの顔を、藤原は微妙な表情で見つめていた。 * * * そんな日の夕方。 「…十代くんが、どうかした?」 できるだけ責めているような口調にならないように、藤原はそう言った。 基本的に、藤原は鋭い。 そしてレイは、嘘は苦手だった。 しかし嘘は嫌いだが、本当のことは言いにくい。 結果的に、沈黙が続く。 こっちから切り出すしかないかと、藤原は続きを口にしようとした―その時。 「あ、憧れだったの!」 泣きそうな顔で、レイが言った。 「憧れで、大切だけど、でも…っ」 あまりに必死な顔で言うから、藤原は思わず抱きしめていた。 「…っ」 「…怒ってるわけじゃないんだから、そんな顔するなよ」 言うセリフ自体既に、そう聞こえそうな声音だったが。 「だって…っ」 「…飛び級したのって、あいつがいたから?」 それでも、あくまで穏やかに聞いてくる藤原に、レイは答える。 「…それも、ある」 出会った当初は、それこそレイはまだ十代の思い出話をしょっちゅう繰り返していた。だからほとんど知っていたも同然のその答えは、それでも少しだけ胸に刺さった。 けれど同時に、どうしてレイがこんな顔をするのか分からないわけではないから、ずっと考えていたことを藤原は言った。 「オレはあいつに、感謝しないといけないんだろうな」 「…え?」 苦笑しながら、藤原は続けた。 「だって、飛び級してくれなかったら、オレはレイに会えなかっただろ?」 藤原とレイは七歳差がある。普通なら、デュエルアカデミアの高等部の生徒が丸ごと二回入れ替われるだけの差があるのだ。 腕を解いて、自分を見つめる瞳に光るものを、藤原はそっと拭う。 「ダークネスのこともさ、最初は後悔してばっかりで、無かったことにしたいってずっと思ってた。だけど、あれがなくてもやっぱり、レイには会えないから。無かったことにするんじゃなくて、ちゃんと背負っていこうって、そう思えたのはレイのお陰なんだ」 変えようのない過去を変えたいという詮無い思い。それを断ち切れたのは、それが無くてはならないものだったと思える未来に出会えたから。 「十代にもレイにも、オレは感謝してるよ。だから、そんな顔しないでくれよ」 苦味を押し隠すように、藤原は笑う。 それを見てレイは、ふるふると首を振る。 「…っ追いかけてるだけで良かったの!」 そんな顔をしてほしくないのは、レイも同じだった。 「そりゃ、振り向いてほしかったけど、でも、亮先輩と十代は、追いかけてるだけで楽しくて、なんか、もう、それだけで嬉しくて…っ」 ひとつ予想外の名前が紛れ込んでいたのを藤原は聞き逃してはいない。 けれどそれは、受け止めるべきなのだろうと思った。 それを口にしているレイが、誰より不安そうな目をしているから。 「…優介は、違うの」 トーンを落として、レイは囁いた。 噛み締めるように告げられるのは、勢いだけでは言えない言葉。 「優介は、追いかけるだけじゃ…いや」 切実で、それなのに叶わないかもしれない願いは、本当でなければ口にできない。 「…レイ…」 二人ともが、切なさを感じていた。 どこか痛みのある表情で自分を見つめる藤原に、レイはこう言った。 「…キス、して」 一瞬、藤原が動揺したのが分かる。 今まで二人がしたことのあるスキンシップは、手をつなぐとか抱きしめるとか、それくらいだった。 ただもう、気持ちを拒まれていない自信はあったから。 「優介、微妙に私のこと手加減してるでしょ」 強気の出し方を思い出しながら、レイはそう続ける。 それに引きずられるようにして、藤原もいつも通りのため息をついた。 「…せめて大切にしてるって言ってくれよ」 「大切になんか―っ」 ―してくれなくていい。 そう言おうとした唇は、言い切る前に塞がれていた。 触れ合った唇の感触。 それはただ優しかった。 「…そんなわけにいかないだろ」 囁いた声が、いつもより近くで聞こえる。 藤原の手のひらが、レイの髪を撫でた。 「これくらいで泣いてるくせにさ…」 「……っ」 何一つ言い返せずに、その胸にしがみついたら、そっと抱きしめてくれた。 優しさが愛しくて苦しくて、涙が止まらない。 けれど暫くそうしていると、聞こえる鼓動が全然落ち着いてなどいないことに気づいて。 そっと囁く。 「…大好き」 聞こえている鼓動が跳ねた。 相手のものか自分のものかも分からなくなりそうなそれが、どれだけうるさく鳴っていようと。 「…オレも、好きだよ」 その言葉だけは、絶対にかき消されたりしなかった。 090224 |
当サイトでイメソンとしては二度目、小文字でタイトルだけ拝借したものを入れると三度目の「LOVE A RIDDLE」(KOTOKO/おねがい☆ティーチャー)でした。 今度こそこればっちり!!とか思って(笑) あとレイには「サード・ラブ」(井上純子/超くせになりそう)も入ってます。 …すごく楽しかった!!!やばいぐらい楽しかった!! 他の人相手だったらとても書けない攻め藤原がもうとにかく楽しくて楽しくて(笑) これで攻めってのが藤原クオリティ(笑) 蛇足ですが、にぶい剣山くんは二人がつきあってること知りません(笑) アカデミアで男女が二人っきりになれる場所誰か教えてください(…) |