SecondLove×FirstLove

 * * * 重なる心 * * *

 自分の部屋で二人きりになった瞬間、亮が切れた。
「教室でベタベタしてくるなと言っているだろう!」
「あんまり我慢しても体に悪いじゃない?そう言う亮だって、ボクが何もしなくても百面相してるじゃないか。十分挙動不審だと思うけど」
 けろりと言い返す吹雪。
「それは…っ」
 それは亮が、どうしても吹雪を意識してしまう自分を必死に隠そうとするからで、自覚はあったものの、改めて指摘されると後ろめたいような気恥ずかしいような複雑な気分で言葉に詰まる。
「大丈夫だって、人って案外こういうことを本気に取らないものだからさ。はやされても九割冗談だと思って間違いないよ?」
 そう言われても簡単に納得できるはずもなく、揚げ足取りを承知で亮はうめく。
「…残りの一割は?」
「気づく一割は同類か理解がある人。まぁこういう人は逆にはやし立てたりしないけどね。面白がってる人ほどそんなこと本気で考えてないんだから」
「………」
 無理に隠そうとしなくても大丈夫だと、さらりと笑う吹雪は一体これまでどんな経験をしてきたのか。それもまた気になるような聞きたくないような気がする話で、あらゆる面で相反する気持ちに揺れ動いてしまう自分が自分でも手に負えない。
 なんだか自分ばかり余裕が無いような気がして、奇妙な寂しさを感じる。
 うつむく亮に、不意に吹雪は優しい声音で呼びかけた。
「ねぇ、亮」
 おそるおそる顔を上げると、そこには困ったような吹雪の表情があった。
「隠すとか隠さないとか、そんなに重要なことかい?」
「…え…」
 戸惑う亮を、吹雪は抱きしめる。
 それはどこか、縋るような仕草に似ていた。
「…分かるけどね」
 そう言った吹雪の顔は、亮からは見えない。
 けれど抱きしめられた感触は、優しくて愛しくて、素直になりきれない心を溶かしていく。
「吹雪は、…吹雪も。その…男を好きになって、悩んだりしたことがある…のか?」
 どこか悲しげな苦笑が聞こえた。
「あるよ、もちろん。…今だって、悩まないわけじゃない」
 自分ばかり、余裕が無いような気がしていた。
 それは何も、今日突然ではなくて、多分、告白を受け入れられたときからずっと。
 けれど、そんなはずはなかったのだ。
 ただ、吹雪のほうが少しだけ経験が多いから、色恋に慣れない自分を守るために隠してくれていただけで。
「でも、仕方ないじゃないか。不器用なくらい真面目で、一生懸命で、憧れの塊みたいなキミのこと、好きにならないでいられるはずない。…ほんとはそんなこと考えなくたって、答えなんか出てたけどね」
 吹雪は体を離すと、亮の肩を抱いて、その瞳を見つめて言った。
「キミは、そうじゃない?」
 穏やかで優しい瞳。
 それは何の苦しみも悲しみも寂しさも知らずに、たどり着ける目ではないのだろう。
 だから亮も、考えすぎるくらいに考えていた想いを、初めて語りだせる。
「…気がついたときにはもう、引き返せないくらいに好きだった。どれだけ否定しても、拒絶しようとしても無理だった。オレは…オレの知らない、眩しい世界に連れ出してくれる誰かを、ずっと願っていたんだ…」
 言いながら、亮の瞳から零れる雫を、吹雪がそっと拭う。
「泣かないで」
 子どもをあやすように抱きしめられたけれど、簡単には止まりそうになくて、亮は吹雪の背に腕を回す。
 この温もりが、この安らぎが、確かに求めていたものだと、今、感じていた。

 * * * 今、君を * * *

 暫くして。
 泣きやんだ亮が、とある異変に気づいた。
「…っ…ふぶ、き…?」
「ん〜、何かな?」
 いつの間にか、吹雪の手が自分の背を撫でている。それも―
「いや、その…。…手…つき、が、少し…」
「手つきが?」
「〜〜…っ手!が、………ゃらしぃ…」
 蚊の鳴くようなか細い声になった部分を、吹雪はしっかりと聞き取っている。
「えーっ、いやらしいって思うほうがいやらしいんじゃない?」
「…っ」
 ぐっさりときた一言に、亮は言葉を失う。
 言い返してこない亮に、さすがにまずいと思ったのか、慌てて吹雪が亮から体を離す。
「…ごめん、いじめすぎた」
 ばつが悪そうに、視線を逸らして吹雪は言った。
「いじめ…?」
 訝(いぶか)るように呟く亮。
「いや、っていうか…こんなに早く限界が来る予定、無かったんだけどねー」
 あはははは、と笑う吹雪の顔には冷や汗が浮かんでいて、なんとなくさっきまでの態度がある種の誤魔化しだったらしいと気づく。
「吹雪…?」
 半ば先を促すように、どうしたんだという思いを込めて、亮はその名を口にした。
 押し黙った吹雪が、幾分長めに目を閉じる。
 次に目を開いたとき、その瞳は真剣な光を宿していた。
 少しの緊張を伴って、吹雪は言った。
「亮のこと、抱きたいんだ」
「………」
 今度は、亮が考え込む番だった。
 吹雪と付き合い始めてから、いや―吹雪を好きになったときから、そういうことを、考えてみなかったわけではない。
 ただこればかりは、一人で考えても確かな結論など出るわけもなく、わからないまま今に到っていて。
 それでも、暫定的な結論ならあった。想像の域を出ない世界の、自分だけの結論ならば。ただそれが、現実の二人の間で通用するかどうか分からなかった。
「…オレは、嫌じゃない」
 自分でも自分に確認するように、亮はそう言った。
 そうして出た言葉は、確かに本当だと思えた。
 だから今、二人の答えを出すために、亮は続ける。
「吹雪は、オレを抱いても後悔しないか?」
 一瞬、吹雪が目を瞠(みは)るのが見えた。
 一呼吸のあと、吹雪は静かに言った。
「…しないよ。できるはずない」
 確信と覚悟を持って響く、吹雪の答え。 
 それを受け止められたから、亮は両手で吹雪の頬を包む。
「それならオレも、後悔しない」
 初めて自ら贈った口付けが、亮の答えだった。

 080428
 090325(日記転載)

前も後ろもぶった切られてるようにしか見えない吹亮話。
でもすみません、ほんと考えてないんです…(苦笑)
亮が最初から本能で恋愛できるかどうかが、うちの吹亮と亮吹の分かれ道(爆)
…うん、例え最初はできなくてもわりと簡単にマスターするから、すぐにリバ化するんだ…。

 
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