Into your moment


 亮が目にしたのは、自分の部屋の入り口隣で、壁に背を預けている吹雪だった。ただ無言で、床に視線を落としている。
 視界に入ったそれに目もくれず、無視してドアを開けようとした亮に、吹雪もまた視線は変えないままぽつりと呟く。
「今夜、抱いてって言ったらどうする?」
 ただ静かな沈黙のあとで、亮は言った。
「オレに、お前まで失わせる気か?」
 その答えは、妥当ではあるのだろう。
 それでも吹雪はこう答えた。
「キミは、何も失くしてなんかいないじゃないか」
 それが昼間のデュエルで、吹雪が掴んだ亮の真実だった。
 そして、だからこそ。…抑えが利かなくなった。
「…今は、友人だろう」
「そのままでいいから」
 言って、自分の左手で亮の左手を握った。
「…今のキミの、愛し方でいいから」
 暫くして開いたドアの中へ、亮はためらうことなくその手を引き入れた。

 * * *

 力ずくでつながれた痛みが教えてくれる。
 キミの心が泣いてる。
 傷つけてすまない。
 それでも、一瞬でいいからキミのものになりたかった。
 その一瞬の先、満たされない絶望の向こうに、キミが何を見ているのか知りたかった。

 過去に置き去りの永遠。
 失くしたわけじゃない。
 ただ、断絶してしまった。
 だからもう一度、再び融け合える日を信じて。

 ねぇ、そうだろう?
 力ずくでつなげた痛みが自覚させる。
 ひとつじゃないこと。
 傷つけてすまない。
 それでも、一瞬でいいからオレのものにしたかった。
 その一瞬の先、満たされない絶望の向こうに、求めているものがあると信じて。

 過去に置き去りの永遠。
 忘れたわけじゃない。
 ただ、触れられなくなった。
 だからもう一度、再びそれに届く日を目指して。

 それまで、待っていてくれるか?

 090403


chips「Into your zone」改題+加筆

 
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