デュエルをしている時間が好きで、デュエルをしている十代が好きで、デュエルを恋愛と同じだと言う兄に倣(なら)えば、それは恋に恋をしているようなものだったのかもしれない。
 十代を呼び止めたあのとき、胸に秘めたたくさんの想いとは裏腹に、伝えられた言葉はとてもシンプルで―会えて良かった、いいライバルでいよう。
 それはきっと、あのときの精一杯ではあったけれど。
 デュエルが恋なら、それは結局、「諦めない」という意味だった。

 風を抱きしめて

「ねぇ、十代」
「なんだ?」
「結婚してくれない?」
 さすがに面食らった顔で驚いてから、十代はおかしそうに笑った。
「随分いきなりだな」
 悪戯が成功した気分で、明日香も笑う。
「これくらい分かり易くないと、あなたは捕まってくれないでしょ?」
 それでも捕まえられるかどうか分からない、という不安は、顔には出さなかったけれど。
 それさえ見透かしたように、十代は優しく笑った。
「どうかな、もうずっと捕まってる気もするぜ?」
「デュエルとみんなに、でしょ」
 自分ひとりじゃない。彼は結局、宇宙全部が好きなのだ。
 別に僻んでいるわけではないけれど、それぐらい器の大きい十代だから、どうすればいいのか分からなかったのも事実だった。
 出した答えが、こんな色気も何も無い告白だったわけだが。
「ま、それも認めるけどな」
 十代は軽く笑うと、そっと明日香の手を取って、指先に口づけた。
 思いがけない行動に、明日香の頬が染まる。
 にやりと、十代が片目をつぶったのが見えた。
 その手をゆっくりと開放すると、十代は真摯な瞳で言った。
「それでも、オレは明日香が好きだぜ。…お前みたいな奴、他にいないもんな」
 そう言ってからりと笑った十代の表情は、昔と変わらない。
 何度も見たはずのその表情は、不思議といつも、新しい感動をくれる。
 胸が詰まりそうになって、明日香は十代の肩に腕を回した。
「…あなたほどじゃないわよ」
「そうか?」
 言いながら明日香を抱きしめる腕は、大切なもの全てを、残らず大切にすることを、誰より知っている人の腕だった。
 いつか風のように吹き抜けていった存在が、今確かに腕の中にある。その風の本質を、見失わないままに。
「…大好き」
「…おう」
 囁いた後にくすりと笑って、顔を見合わせた。
 言葉で言えない想いの代わりに、ただ優しく唇を重ねた。


一番やりたかったのは「手の甲にキス」でした(笑)
十明日はほんと結婚したらいいと思う(笑)
090709(chips初出)/090926(修正転載)

 
BACK