Alone


 体の調子はそれなりによくなって、寝ているのも暇で体を起こして本を読んでいたら、ドアをノックする音がしてそちらを見やる。開いたドアから入ってきたのは十代だった。
「…アンタ、起きてていいのか?」
 呆れたように言った十代は、亮の手術中翔につきそってくれていたこともあって、翔が亮のデッキを持ちだして練習していることも知っている。だからそれは、体は大丈夫なのかという意味と、また翔に怒られるぞという意味と、両方入っているのだろう。
「ああ、問題ない」
 いや、あるだろう、吹雪あたりならそう言うのかもしれなかった。けれど十代は、そうは言わないのだ。
「なら、いいけど」
 そう言って椅子にかけた十代は、少しだけ言いにくそうにしてから、こう切り出した。
「こんなこと、今のアンタに、言ってもいいのか分かんねぇけど」
 大丈夫だと言う代わりに、開いていた本を閉じた。
「…アモンが、帰ってきてないって…知ってるか?」
 その問いに、無言で頷く。顛末は知らない。それでも、それが何かの「傷痕」なのだろうということだけは、漠然と思っていた。
「…あれさ、多分…オレのせいなんだ」
 ぽつりと呟かれたそれに、感情の色は見えなかった。
「オレが、ユベルを手放したりしなければ…あんな事件、全部、起きなかったかも知れなくて、そうすれば…アモンが、自分の心の闇に呑み込まれたり、しなかったかもしれなくて」
 そこで一度、声が途切れた。
「…だけどそんなこと言ったら、アモンは絶対、思い上がるなって、そう言うんだ」
 決して強くはない、けれどきっぱりとした声で、十代はそう言った。
「オレだって、ユベルのしたこと全部、赦したことを後悔してない。それを誰に謝る気も無い。だからオレは、アモンに、許してくれって言う資格さえ無い…」
 淡々と語るそれは、懺悔ですらない告白。誰に聞かせる意味もないはずの、どこまでも透明な告白。

 ―いいのか?

 一瞬だけ、そんな自分の声が聞こえた気がした。
 けれどその一瞬後には、亮はもう十代を抱きしめていた。
「…それが孤独だ、十代」
 決然としたその声は、けれど囁きにも似ていた。
 空気の揺れる気配がして、くぐもった声が十代の口からこぼれる。
 ぎゅっと、亮にすがりつくように腕を回して、十代が泣いていた。
 十代は知っている。アモンも、十代も、―亮も、みんな同じなんだと。果てのない孤独を、握りしめている。それこそが、誰にも譲れない自分だけの原点だから。
 ―だから、こそ。
「…十代」
 そっと、亮は十代の唇に口づけた。
 見開かれた瞳が、応えるようにゆっくりと閉じる。
 離さないでくれとでも言うように、亮にすがる腕に力が籠る。
 孤独を触れ合わせるような口づけは、長い夜の始まりだった。


 
GXは「人は何故人を求めるのか」とかそういうレベルにテーマ設定しても二次創作ができるんだ!とかいう気持ちで書いた(かなり本気)
TURN-159「もう、戻れないこともある」TURN-163「カイザーがそれを望んでたら、しょーがないだろ?」の流れで起こる話だと思ってください。
実際には、十代は孤独に耐えられるんだと思います。そのためのユベルとも言えるし。でも、多分それでも結構ぎりぎりのところで耐えてて、もし耐えられなくなってそういうときに頼れるとしたら、亮しかいないんじゃないかなーと。
十代が本気の本気で弱音吐きに来たら、亮は黙って抱きしめてくれるよ…(笑)
ちなみに、十代にとってのユベルは、多分亮にとってのサイバー・エンド(笑)
亮は絶対弱音吐かないからな…つーか亮に弱音吐かれて受け止められる人が思いつかん(笑)亮にとっては、慰められるとかより自分が誰かを愛することそのものが癒しになるんだと思う(真顔)

091123(chips)
091130(転載)

 
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