◆TURN-168 モーターボートにエンジンをかけたそのとき、飛び乗ってきた者がいた。 「カイザー!?」 「オレも連れて行け」 迷っている暇は無く、十代はひとつ頷くとそのままモーターボートを発進させた。 一気に開けた視界の中に、真っ青な海が広がる。 それを前方に見据えながら、風を切る感触が安定したのを見計らって、十代は声をかけた。 「体、大丈夫なのか?」 「ああ」 即答されたそれが本当なのかハッタリなのかは、正直十代には分からなかった。ただ分かるのは、どちらだろうと等しく気にするなと言われているということだけだ。 逆に今度は、亮から問いかけられる。 「一人で行くつもりだったのか」 「…時間が無かったんだよ」 言い訳じみているのは、できれば自分一人で片をつけたいという内心を見透かされたからだろう。そうそう一人でできることばかりでもないと、分かってはいるのだが。 「あんたこそ、なんでこんなことしてるんだ?」 そう言って、十代は横目で亮を見やる。 静養中の亮には、騒動をわざわざ伝える者もいないはずだ。しかもまだ、事件はおおっぴらにはなっていない。 「あまり甘く見るな」 心でも読んだのかと言いたくなるセリフで、亮は余裕の笑みを浮かべる。 何の説明にもなっていないのに全部納得させられてしまいそうなこの雰囲気には、当分追いつけないような気がする。 その笑みが、不意に引き締まって前を向いた。 「…これは本当は、オレ達の問題だろうからな」 自分も視線を前方に戻しながら、十代は尋ねる。 「…藤原のことか?」 「…ああ」 抑揚の無いその声からは、感情を読み取ることはできなかった。 「何があったんだって…聞いても答えちゃくれなさそうだな」 「悪いな」 その言葉を刻む口元は、かすかに笑っていた。 十代が知る必要の無いことを、亮は語らない。 「話はここまでだな。飛ばすぜ!しっかり掴まってろよ」 「ああ」 TURN-170 エドvs斎王!「絶対運命決定力」発動!! ミスターTの群れから二人を守ったトラックから現れたのは、エドと斎王だった。 「最終目標はアカデミアか。考えてみれば当たり前だったな」 「畜生、早く戻らねぇと…!」 「KCにヘリが用意してある。ついて来てくれ」 * * * 「―その部屋に入るな、十代!」 「「エド!?」」 斎王と十代の声が重なった。 足を止めた十代に代わって、エドがその部屋へと踏み込む。 「ここにヘリはない。これはお前をおびき寄せるための、ダークネスの罠なんだ」 「…最初からそのつもりだったのか、エド」 斎王の声には、不気味なほど感情が見当たらない。 「…ああ」 それに何より痛みを感じているのは、きっとエドだろう。 目の前の事態についていけず、十代は呆然と立ちすくむ。 それを叱咤したのは亮だった。 「オレが残る。お前は先に戻れ」 「カイザー!」 「ぐずぐずしている暇はないだろう。行け」 「…分かった」 TURN-171 運命の終焉! ドラグーン・D・エンド vs ザ・ダーク・ルーラー 美寿知を人質に取られた斎王を、エドはぎりぎりまで止めることができなかった。今の斎王を救う力が、今のエドにはない。 「亮」 それはどこか、異世界で聞いた声に似ていた。 『つなげてくれ、十代!ボクの…いやボクたちの思いを!ヨハンを、友を救え!』 あのときの声は、決して悲壮ではない、未来をつなぐ希望と意志に満ちた声。 けれど今、その声が帯びているのは、絶望。自分の手で友を救えないことに、確かに彼は絶望していた。 「…後は頼む」 「ああ」 相手も否定できない、自分も曲げられない、勝つことも負けることもできないデュエル。だから引き分ける。 (…似てるな) 同じ状況になれば、同じ答えを出すだろう人間を、自分はもう一人知っている。 「ありがとう」 それは多分、理性が言わせたセリフだっただろう。 そんな言葉を言われる資格は自分には無い。 心の闇に、ダークネスに取り込まれる二人を、見ているしかできないのだから。 TURN-171.5 亮vsダークネス!友情のパワー・ボンド 「…あれもまた、お前の守れなかった大切なものというわけだ」 背後からかけられた声に、亮は鋭い瞳で振り向く。 その瞳に映ったもの、漆黒の衣装を身にまとい、同じ色に輝く仮面に覆われたその人物の素顔は、窺い知ることはできない。 「無力なものだな、ヘルカイザー亮」 言われなくとも、そんなことは知っている。 いっそ笑えるほど、自分は無力だ。 だからその心のままに、皮肉な笑みを浮かべる。 「なるほど。オレはまだ、その名の呪縛から自由になってはいないということか」 デュエルディスクを構えながら、相手を睨みつけて言った。 「貴様がダークネスか。いいだろう、相手になってやる」 「生意気だねぇ」 ダークネスもまたデュエルディスクを構える。 「「デュエル!」」 * * * 「何故闘うことを選んだ?」 「知らんな」 「とぼけるのはよせ。勝利が欲しいんだろう?」 以前の自分なら、確かに勝つためだっただろう。 だが今は違う。闘う意味はそれ以外にもある。何も知らないからこそ闘えていた子どもの頃と、同じように。するべきことそのものは、今も昔も変わらない。 だから今、ダークネスの正体に意味はいらない。 「…だったらどうした」 「勝ってみればいい。例え何度勝利しようと、お前に彼らは取り戻せない」 それはおそらく、嘘ではない。 「傲慢で自分勝手。それで何人傷つけてきた?」 「それこそ、貴様の知ったことではないだろう」 その反応に、ダークネスは満足げに笑う。 「お前は知っている。何かを守る力も、何かを救う力も、お前には無い」 確かにそうだと、亮は胸中で呟く。 最初からずっと、ダークネスが口にするのは真実ばかりだ。 「本当は辛いんだろう?傷つけることしかできない自分が」 けれどひとつだけ、ダークネスは読み違えている。 「オレが終わらせてあげるよ」 「…何か勘違いしているんじゃないか」 「なんだと…?」 あくまで余裕で、亮は笑った。 「魔法カード発動、パワー・ボンド!サイバー・エンド・ドラゴンを、攻撃表示で特殊召還する!」 今は亮のエンドフェイズ。ここでこのカードを発動することは、そのまま亮の敗北を意味する。 「選ぶのはオレだ。他の何を失おうと、貴様に絆は渡さない!」 * * * 「―ッ!」 大切な何かが消える予感に、吹雪は胸元を掴んだ。 「…亮…?」 その声に応えるように、目の前に、いないはずの亮の姿が現れる。 立ちすくむ吹雪に、亮は言った。 「オレのことは忘れろ」 「っ何を言い出すんだ!」 「それがあいつの心の闇だ。あいつをどうにかしたいなら、それが絶望ですらないことを教えてやらないとな」 「…藤原のことを言っているのか」 「ああ。…あいつは、十代に似ている」 「え?」 予想外の名前に、吹雪が戸惑いの声を上げた。 かすかに微笑みにも見える表情で、淡々と亮は続ける。 「誰からも慕われながら誰よりも孤独で、そのくせ孤独に耐えるような強さを持たない。拒絶されるのが怖いから、頼りたくても頼れない。だが、十代はもう、孤独と闘う力を…仲間を信じる力を持っている。自分の仲間が、信じられる仲間だと知っている。…藤原はまだ、知らないんだ。それを伝えたいと、今でも思っているんだろう?」 「…うん。そうだね…」 それは昔、伝えられなかった絆の力。 藤原を救えなかった後悔が、それを忘れて逃げてしまった後悔が、今も吹雪の中に残っている。 「藤原を知っている者は、アカデミアではもうオレとお前しかいない。あいつは、オレ達が救うべきなんだ。だが…独りでも生きていけるオレは、孤独との闘い方は教えられても、誰かの居場所にはなってやれない。今の藤原を救うのは、オレでは無理なんだ。だからお前一人ぐらい、藤原のために…藤原のためだけに、いてやってくれ」 「亮…」 「忘れろという言い方が悪かったな。…オレのことは気にするな。お前のやりたいようにやればいい。オレもそうしてきたんだからな。何があっても、オレ達は親友だ」 そう言って笑った亮に、吹雪もまた笑った。 「分かったよ、亮。…全てが終わったら、また絶対に会おう」 「ああ」 頷き合った次の瞬間、亮に関わるすべての記憶と情報が、この世界から消えた。 TURN-172に続く 090426(chips) 100217(加筆修正転載) |
「力に囚われるか、力を使いこなすか」というテーマ上斎王VS十代は外せなかったんだと思うんですが、エドを出すならこんな感じかなと。エドと吹雪は似てると思います(笑) ダークネス考察しなおして最後の部分かなり大幅に改定したら亮が総攻めくさくなったのは見逃してください。多分こういう感じかなーと。 改めて思ったよ、亮はダークネスには絡めにくい。これはもうしょうがない。亮から強さを教わった十代が、原理上(としか言いようがない…)出てこれない亮の代理で闘ってる感じというか。そして原理上、吹雪の働きも目に見えない…(笑) 十代は、孤独に耐える強さなんか持ってないです。だから最後の希望になれる。皆が自分よりよっぽど強いことを知っているから、皆を呼びもどすことができる。そんな皆みたいに、強くあろうとした人だから。だからダークネスとの十代の戦いは、皆と同じように「自分を信じる」孤独な戦いだった。 孤独との戦いが、絆を信じる戦いで、みんなが同じ戦いをしてるっていう意味で、みんなは一緒に戦ってて。 意味が分かりにくいんだけど、あれ以外の表現方法があったかというと疑問、というのが私が今持ってるGX(特に3・4期)についての感想で、大変悩ましいです…(笑) 私が思うGXの二大テーマ 「いつでも皆で楽しむ気持ちを忘れずに☆」(平常時) 「仲間を信じて孤高であれ」(戦闘時) |