ぬくもり
久しぶりに会った十代は、旅先での思い出を楽しげに語った。 行く先々で様々なつまずきを抱える子どもたちを励ましたり、やっかいごとを片づけたり、世界中で活躍する仲間たちとデュエルしたり。 充実した日々を過ごしていると分かるその表情は、出会った頃と少しも変わらない屈託の無さで。 やっぱり今でも好きだと、明日香は思う。 「明日香はどうなんだ?」 「えっ?」 急に話を振られて、感慨にふけっていた明日香は戸惑う。 「あ、そうね…順調、かしら?」 今はまだデュエルカレッジの学生だが、次の春には卒業して、正式にデュエル・アカデミアの教師になる予定だった。 「デュエルを楽しむ気持ちを、伝えていきたいと思うわ。…あなたみたいに」 「明日香」 不意を打たれたような十代の表情に、心が痛む音がした。 結局自分が十代に抱く憧れは、高校時代から少しも変わっていない。 想いを告げられなかったあのときと、同じまま。 あのときは、十代が自分よりも遠い未来を見据えていることが分かってしまって、頑張ろうとしている十代に甘えたくなくて、足枷になりたくなくて、だから言えなかった。 けれど― (今の私なら、あなたに追いつけるかしら?) 優しく、明日香は微笑んだ。 「デュエルで人は心を結べるんだってこと、私はあなたに教えてもらったわ。あなたのデュエルが…あなたが、ずっと好きだったの」 それはずっと、大切に抱きしめていた想い。 慈しむように告げたその声は、あのとき焦らなくて良かったのだと、明日香自身へと告げるようでもあった。 耳を傾けていた十代は、真剣な表情で、呟くように語り始めた。 「…いろんなとこ回って、いろんな人と関わってきて。当たり前だけど、オレじゃ駄目なこと…「どうしてもソイツじゃなきゃ駄目だ」ってことって、すげぇ沢山あるんだ。ためらってる「ソイツ」の肩を押したり、行き違ってる気持ちを橋渡しするぐらいなら、オレにもできる。だけど、「ソイツ」がいなくて、本当にどうにもならなくて、気休めぐらいしかできないときもある。そういうの、やっぱりって言っていいか分かんねぇけど、家族絡みなことが多くてさ。そういうとき思うんだ。「特別」ってのは、こういうことなんだろうな…って」 「十代…」 それは十代が、さっきまでの会話では決して語らなかった影の部分だった。 ただ静かに、明日香はその言葉に耳を傾ける。 「オレはずっと、オレにしかできないことを、オレだけの居場所を探してた。今の生き方はその答えだけど…何か足りないって、本当は思い始めてた」 噛みしめるように、しんとした沈黙が落ちる。 ゆっくりと振り向いた十代が、明日香へと、まっすぐに向き直る。 「明日香。オレの「特別」になってくれるか?…オレを、「特別」にしてくれるか…?」 そう言った十代は、いっそ頼りないほどに寂しげに見えて。 明日香は、十代を抱きしめた。 切ないような愛おしさで、目頭が熱くなる。 「…言ったでしょう?ずっと好きだった、って。もうずっと前から、あなたは私の「特別」よ。…今でも好きよ、十代」 十代の腕が、明日香を抱きしめた。 たったひとつ、足りなかったぬくもり。 交わした口づけに、すべてが満たされていく気がした。 101225 110115 |
十代は意識的に思い悩む方じゃないですが、やっぱり居場所欲しかったんだと思うんですよね。 「一番はオレ」とか「ヒーローになりたい」とか、それは自分が特別だってことだったり、特別になりたいってことで、それは誰でも持ってる「居場所が欲しい」っていう気持ちの、一番ストレートな出方という言い方もできる。誰だって自分だけの居場所が欲しい。居場所が無いと生きていけない。 GXって、居場所と存在意義の話なのかもなぁと思います。十代の存在意義は、「誰かの居場所と存在意義を守るヒーロー」。十代の居場所は、「(一緒に闘ってきた仲間たちのいる)デュエル・アカデミア、そしてそれが存在するこの宇宙」。だからアカデミアや宇宙を守るのは十代の存在意義だし、アカデミア(とその仲間)は、十代がヒーローじゃなくたって居場所を提供して守ってくれる。 でも、無条件で居場所を提供してくれるアカデミアは、存在意義で居場所を勝ち取れない子どものための居場所。大人になったら卒業しないといけない。 だけど、純粋に今を楽しむ心は、時を超えて人を子どもに還らせてくれて、だから生きとし生ける者全ては、この宇宙に無条件で居場所を許されてるんだよ!というのがGXの最終回なのですが(笑) そうじゃない大人の居場所は、大人の存在意義で勝ち取らなくていい居場所は、もちろん一緒に子ども時代を過ごしてきた友達でもあるんだけど、やっぱり一番は愛する人と二人で作る世界で、つまり家庭で(笑)、明日香がカレッジ卒業して大人になったら、十代は明日香と家庭作るんじゃないのかなぁと思う(笑) GXは、「ヒーロー」⇔「誰もが無条件に生きてていい」っていうテーゼを押し出した関係上、十代の恋愛描写は無いのですが(ただユベル関係が親子・夫婦・友人・恋人という人間関係全てを網羅する上位互換ですが・笑)、5D'sは「絆」を前面に押し出してるので、遊星とアキは本編でくっつくだろうと、かなり初期から期待してます(笑)「みらいいろ」見る限り結構イケそうだけどどうかなぁ…!(笑) |