カラーレス・カラード・エモーション 1 マジメなキッカケ ある人にとってどんなにどうでもいいことでも、真剣に悩む人間というのはいるものである。 亮はそれについてどう考えるかというと、もしも自分にとってどうでもいい内容について真剣に悩む人間を見た場合、内容はともかくその真剣さを馬鹿にしてはいけないと思うのだ。 果てしなく真剣な顔で、吹雪は言った。 「恋って…なんだと思う…?」 よくもまぁ自分にこんな質問をするものだとは思うが。 「さぁな」 正直にそう答えた。 そもそもまともな答えが返ってくるとも思っていないだろう。 「分からないんだよ…例えば一度に複数の人に恋をすることはあると思うかい?」 「あるという話は聞くな」 「それじゃあロマンがない!ロマンがないんだよ亮…」 「客観的な定義を求めるなら、個人的な感情で判断するのは避けたほうがいいと思うが。まぁお前が納得できないなら仕方ないな」 大体にして、「〜とは何か」という問いには往々にして結論は出ない。多分出てしまえば世界が終わるんだろうと亮は思う。 「お前にとって、恋は一度にひとつなのか?」 「うーん…だって、浮気は相手に失礼だろう?」 「浮気の定義にもよるな。結婚相手と恋をしていなくてそれ以外の人間と恋をしていたら、浮気はしているが恋はひとつだぞ。さらに言えば例え恋をしていても、行動に移さなければまず浮気とは呼ばれない。この場合は浮気とお前の理想が食い違わないかもしれないという話だが」 「いや、その場合恋をしていないのに結婚していることが問題じゃないかい?」 「愛の無い結婚はどうかと思うが、恋の無い結婚は別にいいんじゃないか」 でなければ政略結婚に人生をかけた昔の人々も報われまい。 「それだと亮は、愛と恋は違うと思ってるってことかい?」 「ああ」 字が違う時点で違うと思う。英語で言ってしまえば等しく「love」ではあるが。という補足は言いたくなかったので言わなかった。 「なかなか興味深い見方だね…」 亮の根拠は言語レベルでしかないので、そこまで言われるほどたいしたことは考えていないのだが。 「お前にとっては同じなのか?」 「え?うーん…まぁボクも同じとは思わないね。ああ、だからむしろ結婚と恋が関係ないと思っているところに注目するべきだったのか。どうしてなんだい?」 少しだけ考えて、亮はこう言った。 「恋をした相手と、必ず結ばれるとは限らないだろう」 その言葉に、吹雪はきょとん、とした顔をする。 「意外にペシミストなんだね?」 「一般論を言ったまでだ」 しれっと涼しい顔でこんな話に付き合う亮を、吹雪は不思議そうに見つめる。 「うーん…じゃあ他には…」 まだめげないのかと、亮は内心で呟く。その根性は賞賛に値するかもしれない。 「…恋と友情は何が違うと思う?」 ぴくりと、亮のこめかみが動いた。 「さぁな」 「またそれ?」 「分からないから分からないと言っているまでだ」 「…さすがに怒ってる?」 「いや?」 「………」 亮の表情はかなりのポーカーフェイスがデフォルトである。よってこの状態の亮から感情を読み取るのは、吹雪でも難しい。 が、読み取るまでもなく、亮は嘘はつかない。それを吹雪はよく知っていた。 「…やっぱり、亮も分からないか」 ため息をついた吹雪は、まだ諦めていないように見えた。 同じようにため息をついて、亮は口を開いた。 「…友情が恋とどう違うかどうしても知りたいなら、少なくとも友情を感じている相手と試しにつきあってみたらどうだ。何か分かるかも知れんぞ」 しばらくノーリアクションで亮を見つめてから、吹雪は言った。 「…アグレッシブな発想だね」 「頭で分からない以上、あとはこれぐらいしか思いつかん。実行するしないはお前の自由だろう」 結構な時間考え込んだ後、変わらず真剣と呼べる顔に冷や汗を浮かべて、吹雪はこう言った。 「…そんなの頼めるの亮ぐらいしか思いつかないんだけど」 「何故そうなる」 「女の子じゃ申し訳ないじゃないか。ボクに恋してくれてる子が複数いる以上、誰とつきあっても角が立つし。かと言って男の子だと他の友達を巻き込むのはさすがに気が引けるというか…」 今までの吹雪の発言を鑑みれば、まぁ確かにそうかもしれない。 しかし発想自体アグレッシブだったが、それをさらにアグレッシブにしてくる吹雪も大概だと亮は思う。 「試しにつきあってって言ったら、つきあってくれる?」 そう問いかける吹雪に、亮は静かに尋ねた。 「…本気か?」 「…本気」 呆れるほど揺るがない瞳にため息をひとつついて、亮はこう言った。 「発言には責任を持つべきだな。分かった」 これが二人が付き合い始めた、いきさつのすべてだった。 090509 100727(chips修正転載) |
+++ 2 ホンネのモウテン に続く +++ こんな異次元思考ができる亮と吹雪がすきです、まる。 趣味に走りまくりなんですが、それだけに思い入れが強いので結局転載することに…(笑) |