カラーレス・カラード・エモーション 2
 ホンネのモウテン


 付き合い始めた、という事実が現実にはどう影響するのか、はっきり言って普通に惹かれあった男女でも具体的に説明するのは難しいのではないだろうか。下手をすれば気分の問題でしかない、という場合もあるだろう。
「だから、何をしたらいいんだろうね?」
 相変わらず、アグレッシブな事態は続いていた。
 ただの友人が恋をするでもなく恋人同士としてつきあうにはどうしたらいいのか。難しすぎる。
「普通はデートからだろうな」
 あくまで常識的な意見を述べる(それにしても話題が話題だけに異様ではある)亮に、吹雪も一応は頷く。
「それって、結局は今まで通り一緒にご飯を食べたりデュエルしたり…だよね?アカデミアでできることって限られてるし」
「まぁ、とりあえずはそうだろうな」
「じゃあ、そういうことで」
「ああ」
 そういうわけで、つきあい初めて一週間ほどは、表面上、今までとまったく何も変わらない生活が続いたのだった。

 * * *

 一週間後。
 吹雪の部屋での毎日のミーティング―密会と言ってもいいが、吹雪としてはノリはそんな感じだった―にて、吹雪は半笑いでこう言った。
「とりあえず…想像力がものすごくたくましくなるね!」
 ほとんどヤケだった。
 「つきあっている」と意識してみると、いつもと同じことをしていても意外に精神衛生上よくないんじゃないかという程度には緊張した。それはまぁ、覚悟していた以上に。
「なるほどな」
 そう言って、亮が相変わらず涼しい顔でいるからなおさらだ。
 というか、ほとんどそれがすべての原因だった。
「………」
 そういう亮を前にして、何を言おうか迷うなどという事態は今まで発生したことがない。むしろ亮は、これで吹雪がどんなにぶっ飛んだことを言い出しても引かないから、安心してなんでも言っていたくらいだ。
 だから今も、別に不安を感じる必要などないはずなのだが。
「…なんていうか、キミのことが、全然分からなくなるくらいにはたくましくなるよ…」
 かなり弱弱しい声で、かろうじてそう呟いた。
「…そうか」
 それでも、亮は顔色ひとつ変えない。
 テーブルを挟んで向かい合わせ。
 ぐったりとそのテーブルの上に寝そべって、吹雪は言った。
「…どうして亮が、こんなことにつきあってくれるのかとか、さ」
「………」
 最初から、動機ははっきりしていたはずだった。
 それでも実際につきあい始めてしまえば、その動機に亮がつきあってくれる理由がよく分からない。いや、律儀な性格だからというのは分かってはいるのだが、これはそれだけでつきあえるようなものなのだろうか。
 ほとんど自分への呟きに、亮はいたって淡々とこう言った。
「…知りたいか?」
 その声に顔を上げる。
 声の調子は変わらない。
 が、何かものすごく重大なことを彼は言おうとしている。
「…うん」
 微妙に視線を落として、結構な沈黙の後で、亮は語り始めた。
「…オレにとっては、恋が何かとか、友情とどう違うかとか、そういうことはよく分からないし、別になんだっていいと思うんだが。だからこそ、お前がそれが気になると言うなら、気が済むまでつきあってやってもいいと思った」
 それはまだ、吹雪が予想していた範囲内の答えだった。
「―というのが、表向きの理由だな」
 が、やはり予想外があるらしい。
 伏せていた目をこちらに向けて、吹雪の視線を捕らえながら亮は言った。
「単に最初から、オレはお前が好きなんだ」
「………」
 分かりやすくて予想外な答えに、吹雪は思いっきり固まってしまったのだった。

 090510

 +++ 3 シンシなコクハク に続く +++

無限の可能性を秘めた亮のポーカーフェイスがたまらない。

 
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