カラーレス・カラード・エモーション 3 シンシなコクハク 「………え?」 好きだと言われてからたっぷり数十秒はかかって、吹雪はようやくそんな声を絞り出した。 ちょっと待ってくれ何故それで恋が分からないという日本語が出てくるんだおかしいじゃないか。という言葉ですら不用意に声に出せない。分かっている、意味は分かっている。それにしても表情が変わらない―変わらない? (ちょっと待って…むしろ付き合いだしてから、笑う回数、減ってる…?) 普段からあまり感情を表に出さないポーカーフェイスなせいで深く考えていなかったのだが、ひょっとして最近は本来の意味のポーカーフェイスが混ざっていたのか。 それとは反対に、どんどん強張っていくのは吹雪の表情だった。 「…ひょっとしてボクは、ものすごく残酷なことをしているんじゃないのかい…?」 この際亮にならって恋がどうのは置いておこう。信頼できる友人だからという理由でこんなことを頼んだ自分は、ある意味では安全地帯にいる。本気を懸けているのは向こうのほうだ。 しかも自分の、知らないところで。 「オレは嘘こそついていないが、それでもほとんど罠にかけたようなものだろう。お前が気にすることじゃない」 そう言っている、淡々とした表情が、痛い。 それが不意に、崩れた。 「オレには思いもよらないことに真剣で、いつでも夢中で。毎回騒動に巻き込まれてばかりいるようなのに、それが不思議と嫌じゃない。…気がついたら、お前のことばかり見つめるようになっていた」 儚い微笑みだった。 罠にかけるなどという言葉は、全然似合わない。 (あれだけ遠まわしな言葉を選んで、本気かって念を押して、ボクの主導で状況を動かして?…計算じゃない、亮にとっては、ボクがこんなこと言い出さなきゃ、言うつもりのない気持ちだったんだ) 今ここで、自分が一言でも引くような発言をしたら。 彼は全部終わらせる。他でもない、吹雪のために。吹雪の意志のために。 (何、言えばいいっていうんだ…) 冷たい汗が、吹雪の頬を滑り落ちる。 それを思えば、確かに罠なのかもしれない。亮の態度はフェアすぎる。無茶な攻撃には出ない、かと言って退いてもくれない。だから吹雪が、答えを出さなくてはいけなくなる。流されることも、反射の反発も許されない。自由を強制されている、そう言えるほどの公平さ。 「…今日は、ここまでにしておくか?」 だから微笑みながら言ってくれたこれも、退いてくれたわけではない。ただ急展開すぎて思考がストップしかねないから、時間を置こうというだけなのだ。 「…そう、してくれるかい…?」 「ああ、わかった」 亮はそう言って、静かに部屋を出て行った。 残された吹雪は、ぐったりとしたまま、ぽつりと。 「……………心臓が痛い……」 やることが思いもよらないのはそっちのほうだと、つきつけられた難題に頭を抱えていた。 090510 |
+++ 4 ミエナイシンジツ に続く +++ 私の脳内では亮は両手で湯呑みを持ってお茶をすすっていたりする(笑) |