カラーレス・カラード・エモーション 5
 フタリのソトガワ


  それから三日ほどは何事もなかったかのように、それこそつきあう前と同じように過ごしていたけれど、吹雪の顔色は晴れなかった。
「何かあったのか?」
 そう聞いてくる藤原に、吹雪は曖昧に答える。
「んー…ちょっとねー…」
 一応、亮とのことは今のところ誰にも秘密だった。というか、亮に悪いと思っていたのだ。こんなことにつきあわせて、妙なレッテルを貼られることもないだろうと。
 実際には、むしろ向こうのほうが、レッテルも何もただの本気だったわけだが。
 そんな様子を見て、藤原がからかうように笑って言った。
「丸藤に告白されたとか?」
「っ!?」
 とっさに声も出ない。
 何言ってるんだそんなわけないだろう、という反応を期待していたのだろうが、あいにくとまさにその通りなのでその期待には添えない。
 言葉を失ってしまった吹雪に、藤原が表情を変える。
「…図星か?」
 その言い方から察するに、あながち百パーセント冗談で言ったわけではないらしい。
「………図星」
「…それは…悪かったな」
 からかい半分で言ったことがか。
 いや、普通はそう思うだろう、普通は冗談で済む。
「…知ってた…わけじゃ、ないよね」
「ああ」
 思ったより藤原は冷静だった。
 それはそれで驚かされる事実だった。亮の告白といい、どうも自分の親友二人は、思っていた以上に奥が深かったらしい。
「…でも、根拠がないわけじゃない…よね?」
「…お前が気づいてるのかどうか、気にはなってたけど」
 そう言って、話が長くなりそうなせいか、藤原は吹雪の隣に座った。
「前に、三人で写真撮っただろ?」
「うん」
「あれ、丸藤が思いっきりお前のこと見てるんだよ」
「………そうだっけ?」
「オレにはそう見えた。というか、写真撮ってるときから、丸藤があんまりお前のこと見てるから、気になってオレが丸藤のこと見てるぐらいだし」
「…そう言えば、そんな写真だったかな…」
 藤原の撮る写真はいつも一枚きりで、複製は作っていない。だから見せてもらった一度きりの記憶では、その像は曖昧だった。
「あれだけ見られて気づかないってのは、逆にすごいな、お前」
「そんなに?」
 何をどう話せばいいのか、藤原もさすがに迷っているらしかった。
「…あいついつも、お前のことばっかり見てたよ」
「…亮も、そう言ってた。…藤原に分かるぐらいなんだ?他の人どう思ってるんだろ…」
 それは、周囲にはバレバレということではないのか。
「オレだからだろ。他にはそんなこと気づいてる奴いないと思うよ。誰だって結局、自分のことに夢中なんだからさ」
「…そうだね」
 あれからずっと、心が痛い。
 気にすることじゃないと言われても、知らないうちに傷つけていたと、どうしてもそう思ってしまうから。
 それこそ、自分のことに夢中で。
「…お前ほんとに、全然気づかなかったのか?」
「…え?」
 それは、責めるような口調ではない。
 文字通りの問いかけ。
 もしもそうだとしたら、気づかない理由があるんじゃないのか、という、ニュアンス。
「………」
「……いや、オレは別に、どっちだっていいけど。ただ…あんまり気を落とすなよって、それだけ」
「…うん、ありがとう」

 * * *

「…誰だって、自分のことに夢中、か…」

 090512

 +++ 6 ココロのユクサキ に続く +++

藤原失踪フラグは回収されませんorz
今回は写真はポラロイド一枚限り設定。
スリーショット写真の視線関係がこういう風にしか見えない…下手にべたべたくっついてみんなでピースしてるより、よっぽど妄想がかきたてられる写真だと思う(笑)

 
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