2. Servant 吹雪との関係は相当微妙なものだった。最初に交わした会話らしい会話からして微妙だったのだから仕方ないと言えばそうなのかもしれない。 普通に仲良くなってお互いの部屋で放課後を過ごすことがあって、気がつけば与えられるようになっていた口づけを受けながら思う、こいつは意味を分かってやっているのだろうか、と。 初めてまともに言葉を交わしたとき、吹雪の言葉はほとんど告白のようでいて、本当はそうではないと亮は思っていた。 どうして、と聞けば、好きだから、と返ってくるのだろう。分かるから聞く意味が無い。袋小路の思考は、最初から何ひとつ変わっていない。 「…浮かない顔してるね」 「…そうか?」 「どこか遠くを見てる」 薄く微笑んだそれは、なかなか捕まらない心を探しながら楽しんでいるように見えた。 それは逆だと言ったら、彼はどんな顔をするのだろう。 瞳だけは縛るように亮を見つめてくるのに、ボクのことだけ考えてとか、そういうことを彼は言わない。自分を自由でいさせようとするようなその態度と瞳のジレンマに、亮は戸惑い続けている。 「…一人は選ばないんじゃなかったのか?」 「ボクが選んだんじゃない。気が付いたらキミに捕まってた。…言い訳だと思う?」 「…いいや」 きっとまた遠くを見ていると言われるだろう寂しげな表情で、亮は微笑(わら)った。 それは吹雪の本音だ。だからタチが悪い。吹雪は自分が言ったことの意味を分かっていない。 (…捕まえたのはオレじゃない) 自分の中にある、何か別のもの。彼とデュエルさえしなければ、多分こんなことにはならなかった。それなら、自分が捕まえたわけではない。 ―どうしてそう思うのかつきつめていればよかったと、後悔する日も来るのだが、それはまた別の話―。 (…恋に恋してる、か…) そんなことを言えば彼は怒るだろうか。それとも傷つくのだろうか。ただ彼の恋心が自分を直接見ているわけではないのは確かで、本当に恋をしているのは自分だけだと、傲慢にも思える切なさを、亮は打ち消すことができなかった。 捕まっているのは自分の方。そして遠くを見ていると言うなら、それは吹雪が遠いのだ。 ←BACK NEXT→ 100224 |