3. Beside 「はぁ…」 吹雪のそんなため息は、聞かせようとする気配を隠そうともしないわざとらしいものだった。 「何そのうざったいため息」 「聞いてくれるかい藤原!」 「いや鬱陶しいって言ったの聞こえた?」 「でもこっちは見てくれたよね」 イエスとは言わないまま切り返してくる吹雪に、藤原のほうこそげんなりとため息をついた。これに付き合わなければずるずると食い下がられるだけで、観念した方が結果的に早く終わることを知っているから藤原は吹雪に向き直る。 「で、何なんだよ」 「亮はボクのこと、好きじゃないのかな…」 「………」 もう一度ため息をつこうかと思った。というより、「オレがそれに答えられると思うのかお前は」という言葉が、言葉にならなかった。 「…一応聞いておくけど、どういう意味なんだ、それ」 茶化すように吹雪が答える。 「え?やだなぁそんな野暮なこと聞くの?」 「わかった野暮な意味なんだな。で?」 皆まで言うなと話を強制終了させて、藤原は先を促す。 「うーん、キスまでは許してくれるんだけど、イマイチ気を許してくれてる感じがしないというか…」 「…は?」 そこで硬直した藤原に、吹雪が不思議そうな目を向ける。 「あれ?今の何かおかしいところあった?」 どこがおかしいと言い始めたら最初からおかしいところだらけだが、それは吹雪に突っ込むだけ無駄だと思ったから言わなかっただけだった。ただそれを差し引いても、今のはおかしいと藤原は思う。 「…お前ら、つきあってんの?」 「え?うーん…ちゃんと約束したわけじゃない…かな?それっぽいことは言ったような言わないような…微妙?」 「それで、キス?」 「うん」 「…お前、馬鹿か?」 「えっ、どこが!?」 本気で聞き返してくる吹雪に頭が痛くなる。やっぱりこいつとは人種が違うらしいと思いながら、藤原は内心で亮に同情した。 「あの堅物が、好きでもないのにキスなんか許すわけないだろ。オレとしては、約束もない状況でそれに甘んじてるだけでも驚きだけどね」 ごくりと生唾を飲んで、沈痛な面持ちで吹雪はこう言った。 「そ…そういうものなのかい?」 「…さぁ、推測でしかないから」 「そこで退(ひ)かないでよ!」 「仕方ないだろ、事実なんだから。大体、お前の方がいっつも一緒にいるくせに、なんで丸藤に聞かないんだよ」 「怖いから」 即答した吹雪に、藤原は目を瞠る。 吹雪から聞いたことのないセリフランキングなんてものがあるとしたら、間違いなく上位に入るだろう言葉だ。 「だって怖いじゃないか!自分だけ好きだったりとか!それに合わせてくれてるだけだったりとかしたら!何も信じられなくなっちゃうじゃないか!」 「……っ」 その言葉に、藤原の顔が強張(こわば)る。吹雪は気づかないようだった。けれど鉛のように、その言葉は藤原の中に落ちて行った。 平静を装って、藤原は言った。 「…そうは言ったって、ほんとのこと知ってるのは、丸藤だけだろ」 はっと、吹雪が顔を上げる。硬い表情が真剣さにすり替わっていることを祈りながら、藤原は続けた。 「お前は、嘘でもいいから丸藤と一緒にいたいのか、本当の丸藤の気持ちが知りたいのか、どっちなんだよ」 「…本当にボクのことが好きな亮と、一緒にいたい」 当たり前のその願いを、口にできる吹雪は強いと藤原は思った。それが叶わないかもしれないから怖いのに、曖昧で不確定な闇の安寧に、彼は逃げようとはしない。 「だったら、覚悟決めるしかないだろ?」 そんなセリフを言う資格は無いと思いながら、藤原はそう言った。誰よりそんな覚悟が持てないのは、多分自分なのに。 けれど吹雪は、呆けたような顔でこう言った。 「…うん、ありがとう」 「礼言われるようなこと言ってないよ」 「そんなことないよ」 それは多分感動していたから、なのだろう。 (そんな目で見るな) 自分はただ、思ったままを適当に言っただけ。同じような質問をされたら、自分はきっと答えられない。それくらいに無責任な言葉なのに。 「ありがとう、藤原」 見せてくれた笑顔に、確かに胸が痛んだ。 「大好きだよ!あ、野暮じゃないほうで!」 そんなことを言った吹雪が出て行ったあとには、うなだれる藤原が一人、取り残されていた。 ←BACK NEXT→ 特に説明してませんが、藤原の研究室に手伝いがてら邪魔してた吹雪って感じです。 藤原に鬱化フラグセット。回収されるかどうかは分からない!(爆) 失踪が決定しているので、お約束というか(汗) ていうかこれ入学の何ヶ月後なんだよ、とちょっとセルフツッコミ。まぁ、適当に(汗) 100225 |