4. Declare ふとした拍子に見つめあって、何度も繰り返された口づけの予兆の中に、いつもと違う気配を亮は感じた。 吹雪の瞳には思いつめるような光が宿っていて、だからこそ戸惑っているように見えた。 それとは裏腹に亮の体を捕えようとする手を、亮は反射的に振り払った。 「っ…」 その反応に呆然と見開かれた瞳を見つめながら、亮もまた息がつまりそうだった。自分が何をしたのか、思考がついていかない。 どのくらいか分からない、長いような短いような沈黙が流れる。 痛みに耐えるような表情で、吹雪が口を開いた。 「…亮は、ボクのこと、…どう…思ってる?」 それが多分、いつもと違う原因の全てだった。 今までずっと、言わなかったし聞かれなかったこと。 何か言わないければと、焦る心とは裏腹に、言葉は一向に出てこない。 多分簡単な言葉のはずなのだ。それは分かっている。どんな言葉を使えばいいのか、自分はもう知っている。それでも違う。何を言っても違うとしか、思えない。 「…っ」 「えっ…」 出てこない言葉の代わりに、あふれたのは涙だった。 自分が泣いてしまったことそれ自体も情けなくて、亮は無言で涙をぬぐう。 吹雪の困惑が伝わってくる。 今聞かれた吹雪の疑問に、どうしても直接答えるわけにはいかないのだと悟って、亮は半分やぶれかぶれになりながら言った。 「…オレは、お前が思うほど、…綺麗じゃない」 「え…」 「…どう言えばいいのか、分からない。うまく言えない。ただ、こうやってお前といながら、ずっと、違うと、思っていた。お前が見てるのはオレじゃない。だけど言えなかった。オレは…」 言葉にしてしまえば、せき止められていたものが溢れてくるようで、ぎり、と、掴むもののない右手を握りしめる。 次の瞬間、亮の中で何かが切れた。 「…大体お前、なんでそう、口説くときだけ人格が違うんだ!」 「ぅえぇぇ!?」 いきなり逆切れした亮に詰め寄られて、吹雪が素っ頓狂な声を出す。 「自分で分かってないんだろう。どうしてオレが、こんなに簡単に言いなりになってると思うんだ。男同士だって分かってないわけじゃないだろうな!?まぁオレも気がついたのはだいぶ後だったがな!そんなこと、悩む暇も無いくらい一瞬で落としたくせに、お前は何一つ知らないんだ」 「ちょ…え、何!?」 襟首を掴まれながらまくしたてられるそれに、吹雪は目を白黒させる。 「聞きたいなら教えてやる。お前のことが好きだと言っているんだ、この馬鹿!」 そう言って息を切らせた亮に、吹雪が目をしばたたかせるのが見えた。 何か無茶苦茶なことを言ったような自覚はある。何が変わったわけでもないけれど、不思議と胸のつかえはとれた気がする。 (何だって良かったんだ。それくらいオレは…吹雪のことが、好きなんだ) また泣きそうになりながら、亮は自分を見つめる吹雪の瞳を見つめた。 何が見えていなくても、何を分かっていなくても、その瞳だけはまっすぐに亮を捕えてくる。それだけで、本当はもう十分だった。 (知っていたのに…オレは何を、怖がってたんだ) 「…お前だって、ちゃんと言ってはないだろう?お前はオレのこと、どう思ってるんだ。…吹雪」 呆気に取られていた吹雪が、そのままの瞳で口を開いた。 「…キミが好きだよ、亮」 その次の瞬間、こぼれそうになった涙を隠すまでもなく、亮は吹雪に抱きしめられていた。 「大好きだよ。最初に言った通りだ、ボクはもうキミの虜なんだ。キミの全部が好きだよ。…だからもう、そんな風に泣かないでくれ…」 それが吹雪の精一杯の真実だと知れるから、言われた言葉とは裏腹に涙は止まらなくなる。 優しく抱きしめてくれる腕の中で、ずっと遠くに感じていた吹雪に初めて触れられたことを知った。近づく方法はただ一つ、彼に焦がれる心をさらけ出すことだった。 やっと触れた心を重ねるように、切なくも甘い口づけを交わした。 ←BACK あれが天然じゃなくて確信犯だったら亮の立つ瀬がないので、 付け込むためのウィークポイントということで(笑) 確信犯で隙の無い攻め吹雪は私には無理\(^o^)/ 100226 |