僕たちは多分、似たような孤独を抱えていた。
 だけどあの頃は誰一人、そんなこと気づいちゃいなかった。
 似て非なるその孤独が僕たちを惹き合わせ、そしてまた、少しずつ引き離していくことも。

  limit→PERFECT 6
 始まりかも知れない

 中等部からの持ち上がり組にとって、高等部の入学試験デュエルはほとんど見世物紛いのイベントだった。とは言え、その試験を潜り抜けた者が自分たちと同じ学園で学ぶことになるのだ、内心はどうあれ、注目を集めるイベントには違いない。
「―ちょっと藤原、せっかく来たのに寝ないでよ」
「だって大した奴いないじゃないか。寝るなって言うならいっそ帰りたいね」
「えー、ボクは結構面白いけどなぁ…やっぱり、アカデミアにいると逆に思いつかない戦術ってあるじゃない?」
「っていっても、今年、そういうのも単に変わり種ってだけのやつばっかりじゃん。もっとこう…」
「―あ、とか言ってるうちに筆記一位の子だよ」
 生憎と放送は聴きそこなった。言われてフィールドを見た藤原は、それまで退屈そうだった顔を一変させる。
「へぇ…。…前言撤回。あいつは面白そう」
「え?そ、そう?えーっと…」
 予想以上の反応に、吹雪も慌ててフィールドを見やる。
 そこに立っているのは、受験生とは思えないほど堂々とした態度の少年だった。
 アカデミアへの入学がかかっている上、観客つき、筆記順位が吹聴された上でのこのデュエルで、まったく気負っていない。
「よろしくお願いします」
 よく通る声だった。その瞬間に、会場のざわめきが落ち着いたのが分かる。それくらい、人を惹きつける何かが、彼にはあった。
「「デュエル!」」
 入試デュエルは受験生が先攻することになっている。
「ドロー!」
 受験生はドローカードを確認すると、「よし」とでも言うように頷く。
「手札から、融合発動!手札のサイバー・ドラゴン三体を墓地へ送り、サイバー・エンド・ドラゴン、召喚!」
「!?」
 高らかな声に召還されたドラゴンは、メタリックの無機質さと龍の気高さを兼ね備えていて、二人は直感的にこう思った―彼にはひどく似つかわしい。
 先攻一ターン目から出現した高レベルモンスターに、試験官ですら動揺しているのが分かる。しかもそのカードは、吹雪や藤原も、おそらくは試験官でさえも知らないカードだ。
「すご…」
 ただ感嘆するばかりで言葉もない吹雪の隣で、藤原が豪快に笑う。
「馬鹿正直だなーあいつ。あれ完璧エースカードだろ?三体融合なんて引きの強さも意味わかんないけど、よくやるよ」
 それは決して馬鹿にした笑みではなくて、むしろ彼のことを相当気に入ったようだった。
「カードを二枚伏せて、ターンエンド」
 先攻一ターン目は攻撃できない。呆然としていた試験官が、我に返る。
「私のターン、ドロー!…ならず者傭兵部隊、召喚!特殊効果発動、ならず者傭兵部隊を生贄に捧げ、サイバー・エンド・ドラゴンを破壊する!」
 その対応に、吹雪がため息をついた。
「初手で攻撃力高いの出すと、こういうのが嫌なんだよね…」
「ああ、天上院よくやられるよな」
「それ言わないでよ!」
 ちなみに、吹雪相手にそれを“よくやる”のは藤原だったりすることを、ここに補足しておく。
「速攻魔法発動!融合解除!」
 そうこう言っているうちに、彼は伏せカードで破壊効果を回避してしまった。
 場に三体のサイバー・ドラゴンが並ぶ。
「一ターン目融合関係ばっかり…?」
「積み込んでんじゃないかって勢いだな」
「でもあれじゃ自滅しちゃうでしょ、普通」
「まぁな。そういうことやりそうにないのは見れば分かるし」
「くっ…カードを二枚伏せて、ターン終了!」
 相手フィールドはがら空きのまま、彼のターンが来る。
「どうするんだろ、総攻撃?」
「セオリー通りならそうだろうけど…あいつはどうかな」
「え?」
 藤原の唇には、何かを期待するような笑みが浮かんでいた。
「ドロー!」
 彼の身のこなしひとつとっても、優勢でも全く気を抜かない気迫が伝わってくる。
「手札から、魔法発動!パワー・ボンド!!サイバー・エンド・ドラゴンを、攻撃表示で融合召喚!」
「え、また!?」
 それだけではなかった。パワー・ボンドによって特殊召喚された融合モンスターは、攻撃力が倍になる。その分エンドフェイズに、召喚したモンスターのもともとの攻撃力分のダメージを受けることになる。
「伏せカードもあるのに…このターンで勝つ気だな」
「ちょっと格好良すぎだよ!?ボクも負けてられないなぁ!」
 デュエル展開に連動して、吹雪の興奮も最高潮だ。
「お前の場合、主に目立ち度の方だろうけどな」
「うん、まぁね!」
 けろっと頷く吹雪は決闘者(デュエリスト)としてどうなんだろうと、藤原はたまに思う。
「サイバー・エンド・ドラゴンで、プレイヤーにダイレクトアタック!」
「トラップカード発動!炸裂装甲(リアクティブアーマー)!」
「カウンター・トラップ発動!神の宣告!ライフを半分払い、カードの発動を無効にする!」
 怒涛のトラップ応酬によって、炸裂装甲は不発に終わる。
「エターナル・エヴォリューション・バースト!!」
「通った!」
 歓声を上げたのは吹雪だ。
 試験官のライフが一気にゼロになる。
「…試験デュエル終了!おめでとう、君の勝利だ」
「ありがとうございます」
 あっという間の決着に、会場がしんと静まり返る。
 その中で、小さな拍手が響いた。
 吹雪が両手を叩くその音が聞こえたのか、彼がこちらを向いた。
 一瞬の間のあと、彼はかすかに微笑んだようだった。
「…これからライバルになろうって奴に、よく拍手とかできるよな」
 そう言っている藤原も、しかしまんざらでも無さそうな表情だ。
「だって、本気ですごいと思ったからさ。別にいいだろ?」
「まぁね」
「彼、ラー・イエロー決定かな?」
「―いや、あいつは僕たちと同じオベリスク・ブルーだよ」
「え?だって…」
 高等部からの新入生は、入学当初は成績が良くてラー・イエロー、悪いとオシリス・レッドに配属され、オベリスク・ブルーへの昇格は入学後の成績次第のはずだった。
「分からないか?」
 にやりと、心底面白そうに笑った藤原が、自信たっぷりに宣言する。
「あいつは、特別扱いされるのが普通ってことさ」

 080606

 +++ limit→PERFECT 7 三人がそろった日 に続く +++

これ書く直前まで、まさか入学時を捏造する日が来るとは思いませんでした。

 
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