高等部入学では掟破りのオベリスク・ブルー入学者。それが、丸藤亮がデュエルアカデミアで最初に貼られたレッテルだった。
「ちょうど一人急に留学が決まって、オベリスク・ブルーに欠員ができてたところなのニャ」
 とは錬金術担当教諭、大徳寺の言。
 しかしそれを差し引いても、彼に支給された制服は白を基調とするブルー制服で―要するに、オベリスク・ブルーでもトップを意味する制服だった。

  limit→PERFECT 7
 三人がそろった日

「…というわけで、欠員補充も兼ね〜て、オベリスク・ブルーに入学することになった丸藤亮なノ〜ネ。入試成績はダントツのトップなノ〜ネ、きっとみんなにもいい刺激になる〜ノ、みんな仲良くするノ〜ネ」
 実技指導担当クロノス教諭のそのセリフに、大人は意外と適当だと藤原は思う。自分で予想しておいてこう言うのもなんだが、普通に考えて、彼に与えられた身分で、周りと軋轢が生じないわけがないのに。
 その適当っぷりに気づいているのかいないのか、彼はすました顔で頭を下げる。
「丸藤亮です。よろしくお願いします」
 何か起こらないといいけど、とぼんやり思ったこのときの藤原は、何かを起こすのが趣味どころか癖と化している自分の親友の性格を、すっかり忘れていた。

 * * *

 一時間目授業終了後。
 誰よりも早く席を立った人物がいた。
「丸藤くん!放課後ボクとデュエルしない?」
「…え」
 いきなり満面の笑みで話しかけてきた吹雪に、彼は面食らって言葉に詰まる。
 一足遅れて吹雪の隣に来た藤原は、ため息をつくように言った。
「お前、そう出るのか」
 正直、予想できなかった自分が軽くショックだった。
「だって、親交を深めるなら一番簡単な道だろう?」
「そうかもしれないけど…」
 よく初対面でためらいもなく誘えるものだと思う。
「…デュエルなら、別に構わないが」
 硬直から脱してそう言った彼の言葉を、果たして聞いているのかどうかも疑いたくなる勢いで、吹雪が続ける。
「じゃ、決まり!デュエル場でね!あ、場所分かる?なんだったら案内もしようか?っていうか授業一緒なんだしわざわざ別々に行くこともないよね、とりあえず―」
「―君の名前を、聞いてもいいだろうか」
 立て板に水とばかりにしゃべっていた吹雪を制して、彼は涼やかにそう尋ねた。
 圧倒されていたように見えたが、わりと簡単に吹雪のペースを掴んだらしい。
(やるな、こいつ…)
 藤原はなんだか妙に感心してしまう。
 はたっ、と我に返った吹雪が答えた。
「あ、ごめん!ボクは天上院吹雪。それからこっちが」
「藤原優介」
 慌てて名乗った吹雪とそっけなく続けた藤原を交互に見やって、彼はこう言った。
「吹雪?」
 どうやらそう呼んでいいかという趣旨で発したらしいその声に、吹雪が一瞬妙な顔をする。
「う、うん」
「と…優介、でいいか?」
「悪いけど藤原で」
 しれっと答えた藤原に、吹雪がすかさず突っ込む。
「あーまたそんなこと言って!」
「いいだろ別に。それとも丸藤なら呼んでもいいよって言えばいいのか?」
「うぅ、それはそれでプライドが…そんな風にボクを試すキミが好きだ!」
「はいはい、意味分からないから」
 傍から見ると予備知識が無い分余計に意味不明なそのやりとりで、本来会話の相手だったはずなのに置き去りにされていた彼はと言えば。
「…吹雪と、藤原。オレのことは亮でいい。もちろん丸藤でも構わないが」
 気分を害した様子もなくそう言った。
「うん、よろしく、亮!」
「よろしく」
 そのとき初めて、亮がかすかに微笑んだのが分かった。
 またまた吹雪が妙な顔をする。
「―あ、とか言ってるうちに次の授業始まっちゃうじゃん!じゃあまた後でね〜!」
 そう一方的に告げて、吹雪は走り去っていく。
(…挙動不審…)
 そんな感想を抱きながらも、吹雪を追うのは後回しにして、藤原は亮にこう言った。
「…僕のこれにそういう反応したの、あいつ以外にはお前が初めてだよ」
「そうなのか?」
 ふむ、と頷く亮は多分、結構ずれている。
 そういうずれ方は嫌いじゃない、そんなことを思いながら、藤原は吹雪を見習うように続けた。
「よろしく、丸藤」
 吹雪の隣で大量生産されるお陰で、実は貴重であることが知られていない藤原の笑顔が、そこにもあった。

 080611

 +++ limit→PERFECT 8 アカデミアへようこそ に続く +++

藤原が予想以上に亮になついた記念すべき回、かもしれない。

 
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