入学初日のデュエルが効いたのか、亮が特別扱いのせいで難癖をつけられるという事態は起こらなかった。誰もが認めざるを得ない実力でもあったし、中等部時代からあらゆる意味で有名なツートップが、真っ先にその友人となったせいでもあるだろう。
 吹雪が度々画策するイベントデュエル―その大半は平たく言えば誰ぞの告白デュエルだったりするのだが―には、常々亮や藤原がストッパーまたは共犯者として現れていたし、早くも模範的な生徒として授業で重宝される亮のデュエルを、吹雪は相変わらず見ては楽しんでいた。藤原と亮の直接対決は、藤原の「せっかくの空気を壊すこともないだろ」の一言で回避され続けていたものの、筆記ではなかなかに熾烈な戦いを繰り広げていた。
 平和な日常と呼べる時間が、穏やかに流れていた。

  limit→PERFECT 9
 友達のフォトグラフ 前編

「写真?」
 既に恒例と化した三人でのランチタイム、鸚鵡返しにそう言ったのは亮だった。
「うん、写真撮っていい?」
 そう繰り返したのは藤原で、その言い方に亮は微妙な違和感を感じる。しかしそれを気にするまでもなく。
「あ、そろそろ言う頃だと思った!でも、相変わらず撮るだけのつもりかい?」
「だって、撮るほうが好きなんだよ」
 鬱陶しそうな目で抗議する藤原だったが、その鬱陶しさが嫌いかと言えば、多分違うのだろうと亮は思う。初日の言動からして、それは本人も気づいているのだろうが。
「亮、変わってると思わないか?藤原って仲良くなった友達の写真を撮りたがるんだけど、何故だか一緒に写ろうとはしないんだよ」
「そうなのか?」
「うん、例えばこれ」
 と、取り出した写真は、ブロマイドと呼ぶにふさわしい吹雪の写真。
「正直まさか普通に撮ってくれるとは思わなかったんだよね…。それはそれとして、いい出来だと思わない?」
「…サイン入りなのか」
 そこには黒のサインペンでまったくためらいなく「FUBUKI 10JOIN」と記されていた。が、亮はどうやらその駄洒落た内容については気にならないらしい。
「うん、ファンクラブの子にも配ってるからね!亮も一枚いる?」
 いるわけないだろ、と突っ込もうとした藤原よりも早く。
「もらっておく」
 亮は即答した。
「うっわ…正気か、丸藤」
「どうだろうな。お前達とつきあうのに正気が必要とも思わないが?」
 ふっ、と笑った亮が、こんなセリフを言うことがあると知っているのは、多分自分と吹雪だけだろうと藤原は思う。
「それに、どうせ藤原も持っているんだろう?自分で撮っているくらいだからな」
「まぁね」
 別に特別なことじゃないと言わんばかりのそのセリフに、藤原は肩をすくめる。
「あ、じゃあ、はい!」
 差し出された写真を、亮はいたって平然と受け取る。
「…まぁ、そんなわけで藤原って、自分はあんまり写りたがらないんだけどさ。ボクは一緒に写った写真あるんだよね!」
 そう言って吹雪がさらに取り出した写真には、確かに藤原と吹雪が二人で写っていた。
「あ、お前それ持ち歩いたりするなよ!」
「え〜、いいじゃないか、せっかくの記念だろう?それに、藤原が写ってる写真って貴重だから、ファンクラブの子から結構見せてくれって言われるんだよね」
「なんで天上院のファンが見たがるんだよ!?」
「藤原のファンもいるからだよ?ボクのファンっていうより、藤原のファンだからって理由でボクのファンクラブ入ってる子もいるからね。焼き増しして配ってないだけ良心的だと言ってほしいな」
「本人の了承なしに見せびらかすののどこが良心的なんだよ!」
 至って平然と応答する吹雪と、次から次へといまいち迫力に欠ける不満をぶつける藤原。
 とりあえず、その二人のやりとりで亮が分かったのは。
「…仲がいいな」
「はぁっ!?」
「あっははは、亮、最高!」
 正反対な反応が返って来る。
「…丸藤。お前、今のちゃんと聞いてたか?」
「聞いていたつもりだが」
 亮が真顔で答えると、藤原は机に突っ伏してげっそりと呟いた。
「…なんか、疲れる…」
 そんな藤原に、吹雪は特に謝るでもなく笑いかける。
「なんだかんだで、付き合いはいいよね。これだって結局ノリノリだし?」
「だから。そういうことを言うな!」
「悪かったって。…でも、亮とも一緒に写れない?なんだったらボクが撮るけど」
「…え」
 さらりと出された提案に、藤原は驚いたようだった。
 嫌だと即答したいとも思わないようだが、さりとて即頷くこともできないらしい。
 答えに窮する藤原を見て、亮はこう言った。
「…三人で写ってもいいんじゃないか?」
「あ、なるほどね!どう、藤原?」
 かなりの時間逡巡(しゅんじゅん)した藤原だったが、吹雪も亮もそれ以上言葉を重ねはしなかった。断るという選択肢も、多分ちゃんと存在してはいたのだろう。けれど、藤原はこう言った。
「負けたよ!もう、ほんとにしつこいな。分かった、三人で撮ろう。いいよな?丸藤」
「ああ、もちろんだ」
「やった、決まりだね!じゃあ、今日の放課後…は、しまった、特別授業か」
「そうだね、しかもあれ、丸藤は免除なんだよなぁ…結構面白いと思うんだけど」
「藤原、そういうの好きだもんね」
 特待生寮の特別授業は、普通の授業で習わないオカルトまがいの知識と技術が必要になるため、中等部からの持ち上がり組限定―要するに、亮は免除、ということになっていた。
「うーん、じゃあ、今日は無理かな。明日の放課後でどう?」
「ああ、大丈夫だ」
「いいけど、なんで天上院が仕切ってるんだよ」
「あれ?ごめん」
 微妙な空気が流れそうになる。
 けれど藤原は、それを回避するように続けた。
「謝ることないと思うけど?じゃ、明日の放課後は撮影会!場所はどこがいい?」
「あ、それはやっぱり正門前じゃない?せっかくアカデミアなんだし」
「本当にアカデミアが好きなんだな」
 そう言って笑った亮に、吹雪はいたってシンプルに答えた。
「うん、大好き!」
「…決まりだな」
 いっそこの瞬間をこそ撮りたいと、そう思うだけの笑顔が、そこには溢れていた。

 080715

 +++ limit→PERFECT 10 友達のフォトグラフ 後編 に続く +++


長編勃発の発端が発端だけに、つじつまあわせるのに必死だったりする。
特待生もブルー寮に住んでて、特待生寮は既に特別授業用にしか使われてない設定です。

 
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