limit→PERFECT 10
 友達のフォトグラフ 後編

 約束の放課後。天気は上々といったところだった。
「う〜ん、いいねぇ、ボクたちを祝福しているようじゃないか。この照りつける太陽!天上の青空!」
 ただしその分、正門前はいつも以上ににぎわっている。大げさに両手を広げてそんなことを言っている吹雪には、一部の女の子たちが熱い視線を投げかけていた。
 それに気づいた吹雪は、右腕をまっすぐ伸ばして彼女たちを指差すと、その視線を誘うように右手を上に上げた。
「君の瞳に、何が見える?」
「…空?」
「天?」
「ん〜〜!JOIN!!」
「キャ〜〜vv」
 キメポーズを取った吹雪に、黄色い声が上がる。
 一歩間違えばブリザードが吹き荒れかねないパフォーマンスな気がするのに、そうならないあたりはさすがと言ったところか。
「なんか、ノリノリだな、天上院」
「そうだな」
 微妙に離れてそうコメントする二人。
 一通りのファンサービスを終えて振り向いた吹雪は、がらりと表情を変えてこう言った。
「とはいえ…この状況でここで三人で写真ってわけにも行かない、かな?」
 普通なら、放課後の正門前、友達同士で写真のひとつやふたつ撮っている人間がいたところで、誰も構いはしないだろう。ただすっかり学園の有名人になってしまっている三人がそんなことを始めれば、ギャラリーができるのは必至だった。いつもの吹雪なら、それもパフォーマンスに仕立てたかもしれないが。
「…うーん、場所、ちょっとだけ変えようか」
「いいのか?」
 場所に正門前を希望したのは吹雪自身なので、藤原はそう尋ねる。
「今日のこれは、プライベートだからね」
 そう言ってウィンクした吹雪の笑顔は、学園のアイドルではなく、悪戯を楽しむ少年のそれだった。

 * * *

 巨大な建物であるデュエル・アカデミアは、正門前を出てブルー寮へと続く道から見やっても、森の向こうにまったく霞むことなくそびえ立っている。
「こういう眺めもいいよね」
 自分の希望を叶えながら、周りへの配慮を忘れないのが吹雪の長所だろう。
(配慮とか、ぱっと見無縁そうではあるんだけどな)
 要するに内輪と外野の線引きが驚くほどはっきりしているのだと、そう知っている人間は果たしてどれだけいるのか。迷惑をかける相手、巻き込む相手、それを吹雪は、無意識的にしろちゃんと選んでいる。
「じゃあ、カメラはこの辺かな…。…っと、できた」
「慣れたものだな」
「できたー?じゃあ早く撮ろうっ!三人だよね三人!セルフタイマー10秒連射!」
 と言いつつ、藤原に後ろから抱きつく吹雪。作業の妨害にしかなっていない。
「天上院落ち着け!10秒連射ってなんだ!」
 さっきから感じてはいたのだが、今日の吹雪はいつも以上にテンションが高い。
「一枚っていうのもつまらないじゃない?で、何回もポーズとるの疲れるでしょ?だから10秒スパンの連射設定にしておいて、一枚目だけしっかり撮る!あとはどんな瞬間が撮れるかカメラ次第!っていうの、どう?」
「…ああ、なるほど」
 ややテンポのずれた納得を、ずれた方向からする亮。
「お前本気でマイペースだよな…。…わかった、わかったから!タイマーセットするの僕なんだから、とりあえず二人はそっち!」
 あくまで背中に乗ったままだった吹雪を引き剥がして、藤原は二人に指示を飛ばす。
「はーい」
 駆け足で位置につく吹雪に遅れて、亮は普通に歩いて目星をつけた位置につく。
 藤原はファインダーを覗いてピントを調整する。
 ファインダーの中で、亮の隣に立っていた吹雪が、ふと亮を見て一歩分横にずれた。二人の間に、一人分の空間ができる。それに気づいて亮が吹雪を見やると、吹雪はにっこりと笑いかけてからこちらを向いた。
「藤原はここ!」
「…わかった」
 ファインダーを覗いたまま、藤原はそっけなくそう答える。
 亮が吹雪に微笑みかけるのが見えた。
(…あいつら、どれだけ自覚あるんだろ)
 時間を共有することで起きる可能性のあること。吹雪に関わっていれば、そういう発想はどうしても身についてしまう。―彼らは、自分が隣の人間に恋をすることだとか、その逆だとかを、考えたりするのだろうか。
(…まぁ、僕が今考えても仕方ないんだけど)
「んー…こんなもん、かな。じゃあ、タイマー押すよ!」
「いいよー!」
 かちっ、とスイッチを押して、足早に用意されたポジションへと収まる。
 一枚目は、とりあえず普通に。
「次はピースね、ピース!」
「はいはい」
「こうか?」
「そこは真顔でするところじゃないと思うぞ」
「そろそろだよ、視線は向こう、はい、チーズ!」
 ワンテンポ遅れて振り向いた亮は、多分うまく写れなかっただろうと藤原は思った。
「じゃあ次!今はデュエル中!カメラは相手!いくよ〜、さん、に、いち、ドロー!」
「ドロー!」
「っちょ、はははっ!丸藤のりすぎ!」
 カシャッ、音がした一瞬後で、亮が振り返る。
「?」
「あ、今度は藤原〜?」
「天上院、これ狙ってやったのか?」
「うん、なんか亮、普通の写真ほうが慣れてないみたいだったから」
「お前最高!」
 そう言って笑う藤原と、「だろう?」と返して笑う吹雪。それを見て、亮は笑った。
「…本当に、仲がいいな」
「…そりゃ、三年一緒にいればな」
 どう答えたらいいのだろうと、一瞬戸惑ったのは多分気づかれなかった。
「そう!ボクは三年かけてやっとここまでたどり着いたのに!」
 横から聞こえる声。
「亮はちょっと藤原と仲良くなるのが早すぎやしないかい!?ボクはちょっと悔しいな」
「そんなこと考えてたのか?」
「それくらい考えるさ!これでも、藤原の友達なのはボクの自慢のひとつなんだよ?」
「心配しなくても、オレが吹雪ほど藤原と仲良くなるにはだいぶかかると思うぞ」
「え?なんで?」
「まだ、オレは藤原とはデュエルをしていないからな」
 それが、普段吹雪があらゆる親交を深めるためにデュエルを推奨していることにならっての発言には違いないけれど。
「デュエルは愛のバロメーターだからね!確かにそれは必要かもしれないな」
 随分とまぁ微妙な言葉が並んでいると、それが藤原の感想だった。
「でもそのとき、ボクはどっちを応援したらいいんだろう…」
 ふざけているのか真剣なのかいまいち分からない顔で考え込む吹雪。
「藤原と吹雪の戦績はどうなってるんだ?」
「天上院けっこうムラがあるから、六割方僕が勝ってるかな」
「えー?そこまで負けてないと思うけどなぁ」
「そうか?まぁたまに、天上院がやたら調子よくてボロ負けすることとかもあるよ」
「誠実にデュエルに臨めば、デュエルの女神が微笑んでくれるのさ!」
 カシャッ!ジー…。話し続ける間にもカメラは断続的にシャッターを切っていたわけだが、今回はそれに続けて巻き取り音が聞こえてくる。
「あれ、フィルム終わっちゃったか」
「じゃあ、今日はこの辺でお開きだね」
「丸藤、つきあってくれてありがとう」
「いや、こちらこそ、楽しかった」
「良かった!」
 
 * * *

 帰る道すがら。
 途中で亮と別れた後だった。
「ボクたち、ずっと友達だよね?」
 吹雪がそう言ってくるから、藤原はただ素直に答えた。
「当たり前だろ」
 それはいつものように、ほとんど軽くあしらったと言ってもいい態度で。
「…うん、そうだよね!」
 だからこそ吹雪は、いつものように笑っていた。

 080724

 +++ limit→PERFECT 11 動き出した歯車 に続く +++

前編書いてから思ったんだ、あの写真、正門前じゃないじゃん?と。
そしてなんで誰一人カメラ目線じゃないんだよ?と思った結果こうなった。でもその撮り方、どう考えてもプリクラ…(苦笑)

 
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