一番気に入っている写真だと言って示されたものは、確かに藤原が言うとおり、三人全員が穏やかに笑っていて、いい写真だと思った。
 亮が一人だけやたらと真顔な写真だとか、藤原が一人爆笑している写真だとか、面白い写真もたくさんあったけれど。
 その一枚が一番なんだと藤原が言ってくれたことは嬉しくて。
 だけど一方で、その写真が、別の意味で、気になって仕方なかった。

  limit→PERFECT 11
 動き出した歯車

「……考えてる時点で負けだろう、ボクっ!」
 ベッドの上で一人、吹雪はそんなことを叫んでいた。
 正直な話、これは最近の恒例行事だった。
 今回考えていることはといえば。
(見てる?そりゃー話してる相手は見るよね?ああ見るともさ。でもなんでボクのほうに目線向いてるかな?いやそれはいくらなんでも自意識過剰というものだろう…で?じゃあなんでそんな自意識が出るのかな?はっはっはー答えは…ひとつか!?ひとつなのかい!?なんで今更ボクはぐるぐる考えてるんだ…!)
 ぐるぐると考えているのは、なにも今日に始まったことではない。
 例えば写真を撮る約束をした日の夜にも、似たような事態になっていた。
 いわく、ブロマイドなんか欲しがるとは思わなかった。自分で言うのもなんだが、いらないだろう普通。いやあの場合社交辞令というやつか。しかし断れないような空気じゃなかったはず、っていうかその前に自分はもらわれて喜んでる?喜んで悪いか?悪くはない、云々。
 ひとしきりのたうちまわってから、ぱたりと止まると、うつぶせのまま呟いた。
「…ボク、亮のこと…好きなんだ…」
 自分自身を試すような響きだった。それはもちろん、友達としてという意味ではなくて。それでも呟いた言葉を、否定することがどうしてもできない。
「………」
 もう何度も、打ち消そうとしてきた。
 その試行自体、自分でも信じられない選択だけれど。
 それでも消せない想いを、たった今言葉にしてしまった想いを、多分、自分だけで抱え続けることはできない。
「…言ったほうが、いいのかな」
 自分でも、薄々は気づいているのだ。もうとっくに、引き返せないことに。伝えたくてたまらない。受け入れてほしいと思う。イレギュラーな恋だけれど、多分亮は、その程度のことで友達をやめたりはしない。
 そしてそんな風に、防衛ラインを引いてしまうけれど。
「…キミがボクを見てるって、そう思うのは間違いなのかな…」

 * * *

 それでもなお、悩み続けて一週間。
 結局吹雪は、亮の部屋を訪れていた。
「どうしたんだ?随分と改まって」
 よっぽど思いつめた顔をしているだろう自分に向かって、いたって冷静と言える対応をする亮の顔からは、その本心は読めない。
 様子がおかしいのは伝わっているのだろうが、それ以上は?
 深読みばかりをしてしまう自分には、もう耐えられない。
 だからもう、単刀直入に言うしかなかった。
「ボク、亮のことが好きなんだ」
 少し考えてから、亮はこう言った。
「オレも吹雪のことが好きだ」
「………」
 吹雪がぱちくりと目をしばたたかせる。
 微妙な沈黙が流れた。
「………はい?」
「オレも吹雪のことが好きだ、と言ったのだが?」
 不覚にもそのとき、やっと吹雪は気づいた。
 全然単刀直入じゃない。
「…え、その、ごめん、どういう意味で?」
 かなり間の抜けた質問だったが、答えははぐらかされることなく直球で返ってきた。
「恋愛感情で」
 自分が動揺しまくっているのが嫌でも分かる。
「吹雪は違うのか?」
「いや、違わないけど!」
 それは、そういう、いつもとあまり変わらないというか、真顔で言うところじゃない。多分。
「…なら、良かった」
(…あ、笑った)
 こういうとき、どうしたらいいのだろう。
 頭が真っ白になる、という感覚を、初めて知った。
 セオリーもなにもない。ここから先何を言えばいいのかさえ分からない。何も考えられない頭を置き去りに、口が勝手にしゃべり始める。
「違わないけど、その、ほんとに?ほんとにボクのこと好きなの?いや、その、亮こういうの苦手そうかなとか思ってたしえっと、その、だから…っ」
 慌てふためく吹雪に近づいて、亮は左手でその肩を抱くようにして顔を近づけると、その頬に右手を添えてこう言った。
「オレはそんなに分かりにくいか?」
 体温が上昇している。顔が熱い。それでも視線をそらすことはしたくなくて、結構酷いことになっているだろう顔を見せたまま吹雪は言う。
「分かりにくいっていうか、分かるわけないだろう!ただでさえ男同士だし、そんな風に、すました顔されたら…っ」
 そう罵ったら、やっぱりあまり変わらない表情ではあったけれど、さっきよりも困ったような気配でこう言われた。
「…すまない。これでも緊張してるんだ」
 その一言で完全に、とどめを刺された。
 目の前の胸に顔をうずめて、すがるように腕をまわして。
「…亮が、恋愛感情で好きだよ。どうしていいか分からないくらい…」
「…オレもだ」
 亮の腕が、吹雪をしっかりと抱きしめる。
「………」
「…泣いているのか?」
「…なんでかな、嬉しいのに、泣けてくるんだ…」
「吹雪…」
 笑って見せたほうがいいのかもしれないと、濡れた瞳のまま顔を上げると、亮が目を瞠(みは)った。
 その瞳が伏し目がちになるのと一緒に、その手が吹雪の顎を捉える。
 口付けが降ってくる。
 吹雪は、一瞬驚いて目を見開いたけれど、心地よさに任せて瞳を閉じた。
 今この瞬間が、永遠に続けばいいと思った。

 080726

 +++ limit→PERFECT 12 回転は止まらない に続く +++

「微笑みの向こう側」書いたときは、告白(と次のはじめて話)のことなんか何も考えてなかったので、あそこから逆算で書こうとしたらえらい難しかったです…。

 
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