「最近、藤原を見かけないな」
「うん、それが…なんだか、研究に夢中になってるみたいで。手伝おうかって言っても、別にいいって言うし」
「そうか…」
「…大丈夫かな、ほんとに」

  limit→PERFECT 14
 大好きな友達へ

 そんな風に、藤原が滅多に姿を現さなくなってから暫く。
 亮は一人、夜の灯台に来ていた。
「わざわざ悪いな」
 呼び出したのは藤原だった。
「いや」
 亮はいつでも簡潔だ。妙な深読みや企みをしないから、吹雪とは別の意味で気楽だった。
「…ひとつ、聞いていいか?」
「ああ」
「どうして、吹雪には内緒なんだ?あいつは、お前のことを心配していたぞ」
「それは―」
 言いかけて、藤原は装着していたデュエルディスクをアクティブにする。
 にやりと笑って言った。
「―約束してたデュエル。お前が勝ったら教えてやるよ」
「…わかった」
 無表情で答える亮の内心は、いつもと同じように読めない。
「「デュエル!」」

 ―誰も見ていない、夜の灯台。
 誰も知らなくていい、こんなデュエルは―

「―負けたよ。やっぱり強いな」
「藤原、お前…本気だったか?」
「手は抜いてないよ?まぁ…デッキは万全とは言えなかったかな。一枚カード抜いてるし」
「どうして…」
「先に、さっきの質問の答え。天上院に内緒なのは、来てほしくなかったからだよ。負ける気がしてたからな。そんなこと考えてるから負けたのかもしれないけど」
「どうして、万全のデッキを使わなかったんだ」
「…僕にはもう、必要ないからだよ」
「必要ない…?」
「もしくは、勝ちたくなかったのかもね。お前には勝利が似合うよ、カイザー亮」
「何を…」
「…アカデミアのナンバー1はお前だよ。僕が保証する。お膳立ては整ってるんだ、王道を行けばいいさ」
「…これは、そのためのデュエルだったのか?」
「え?」
「お前が、オレに負けるための?」
 亮の瞳が、鋭く藤原を見据える。
 藤原はそれを、厳しい瞳で見つめ返して言った。
「…そうだよ」
「ふざけるな!!」
 亮が怒鳴った声を聞いたのは初めてだった。
 デュエルでの真剣勝負を踏みにじられたのだ、怒るのは当たり前だろう。
 だから藤原は、そのままの瞳でこう言った。
「…すまない」
 亮が呆然と藤原を見つめる。
 それが心からの謝罪だと分かったからだ。
「謝るくらいなら、何故…!」
「丸藤ってさ、ほんとにデュエルが好きだよな。好きっていうより、信仰してるってくらい?」
 亮の怒りが収まっていないことに、気づいていないわけではない。けれど藤原は、むしろそれが嬉しかった。
「お前のそういうところ、大好きだよ」
 複雑な笑顔だった。
「藤原…?」
 それが一瞬で、冷たい瞳へと変わる。
「だからもう、僕に構うな」
「…っ」
 それは、完全な拒絶。
 亮が立ち入る隙を、完璧に排除しにかかっている。
「天上院に伝言。例の研究が完成したって、言っておいて」
 悠然と去っていく藤原を、亮には追うことができなかった。
 
 080729

 +++ limit→PERFECT 15 君に捧げる心 に続く +++

とりあえず亮とデュエルさせようと思っただけだったのに…なんかすごいことになった…。

 
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