二人で過ごした穏やかな時間は、つい昨日のことだった。
 けれど今日、教室に吹雪の姿はなく。
 それどろか、彼はもはや島のどこにも見つからなかった。
 
  limit→PERFECT 18
 そしてまた一人消え

 吹雪がいない。そうクロノス教諭に伝えたとき、聞かされた言葉に、亮は耳を疑った。
「大変言い難いことなのですーが…こういうことは、初めてではないノーネ」
「なっ…どういうことです!?」
「アナタが入学してくる前。ブルー寮に欠員ができたと伝えたのを覚えているノーネ?」
「それは…急に留学した生徒がいたと…まさか…!?」
「彼もブルー特待生だったノーネ。表向きは留学中となっていますーが…」
「…実際には行方不明、ということですか…?」
 クロノスが痛ましげに頷いた。
「…行方不明者の共通点は、特待生であること、特別授業を受けていた生徒であることなノーネ。特別授業と特待生寮は、今までにも度々廃止を訴えているーノ。ですーが、力及ばーず…大変申し訳ないノーネー!!」
 目の前で号泣されて、亮も呆然とするしかない。
 行方不明者が帰ってきたという事実も無いのだろう。
 アカデミアに頼っても無駄だと通告されたも同然だった。
「…分かりました」
 そう低く呟いて、亮はその場を後にした。
 
 * * *
 
 それからというもの。
 吹雪と過ごしていた時間は、そのまま吹雪を捜索する時間へと変わった。
 探す当てがそうあるわけではない。基本的には―特待生寮。
 亮自身は入る用事が無かったために来たことはなかったが、吹雪は特別授業のために、頻繁にここを訪れていたはずだった。
(吹雪…っ)
 特待生の中でもトップクラスの成績を誇った吹雪がいなくなったせいか、あれから暫くして特別授業も廃止された。ブルー寮よりも古びたその建物は、今は冷たく静まり返っている。
 そのすべての部屋の、扉という扉を開けて、亮は探し続ける。
「吹雪!返事をしてくれ!!」
 答えは返ってはこない。
 諦めきれずに何度も同じ扉を開ける。けれどそんなことを繰り返していれば、体力も限界になる。
「…っ」
 立ちくらみを起こして倒れかけた亮を、不意に差し出された腕が支えた。
「こんなところで何をしているーノ!」
「クロノス、先生…?」
「この寮は立ち入り禁止が決定したノーネ。学園のカイザーまで失うわけにはいかないーノ、早くここから出るノーネ」
「しかし…っ」
 それではこれ以上ここで吹雪を探せない。反論しようとして、違和感に気づいた。
「…カイザー?」
「そうなノーネ、アナタは学園トップのカイザー亮なノーネ。忘れたノーネ?」
「………」
 誰かに、その名前で呼ばれた気がする。
 どこかで…。
「…忘れたわけでは、ありません」
 誰だったかは思い出せない。
「それなら良かったノーネ」
 ゆっくりと、亮は立ち上がった。
 がむしゃらにここを探しても、あまり意味はないのだろう。
『何もできなくても、例えば見守るしかできなくても、ただそばにいて大切にしたいって』
 響いたのは、吹雪のその言葉だった。
 カイザーと呼んだのは多分、思い出せない誰か。
 奇妙な符号だった。彼に対して吹雪が抱いていた思いに近い思いを、多分今、ここにいない吹雪に持とうとしている。
(…待つ以外に、無いのか)
 行きたい場所があった。
 この寮以外に。
 
 080730

 +++ limit→PERFECT 19 道しるべの来訪 に続く +++

特待生って実は奨学生とかだったりしたらどうしよう。だから孤児多くて行方不明が出ても誰も強く訴えなかったとか(…)
クロノス先生はブルー担当だったはず、というわけで報告させて、ついでにオカルト嫌いそうだから特別授業廃止派になってもらった。が、口調がわかりませんorz

 
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