訪れた場所―灯台には、先客がいた。
 振り向いたその顔を見て、思わず亮はこう叫んでいた。
「―吹雪!?」
「…っ兄さんを知ってるの?」
 その少女が誰なのかを理解するには、十分すぎる一言だった。
 
  limit→PERFECT 19
 道しるべの来訪

「キミは、天上院明日香…か?」
「私の名前まで知ってるの?」
「ああ」
 知らないわけがない。吹雪と共にいれば意識せずとも覚える名前だ。
「オレは丸藤亮。吹雪の友人だ」
「あなたが亮?」
 そう呼んだのは多分、吹雪がそう呼んでいるからだろう。
「兄さんが言っていたわ、すごくいいデュエルをするって」
「そうか」
 それはこの場では、挨拶代わりの情報交換だった。とてもではないが、その内容について和やかに話せる状況とは言えない。
 その証拠に、明日香は必死な瞳を亮へと向ける。
「ねぇ、兄さんはどこに行ったの?」
「…明日香。どこまで知ってる?」
「兄さんに電話しても、誰も出なくて。それでアカデミアに問い合わせたら、アメリカ留学してるって…兄さんが、私に何も言わないでそんなことするはずないのに!」
 その通りだ。それは亮もよく知っていた。
 だからこそ、彼女に残酷な真実を告げなくてはならない。
「明日香。吹雪は今、この島にはいない。…誰もあいつがどこにいるのか、知らないんだ」
「…嘘」
 呆然と呟かれる声。
「嘘よ」
 もう何度、自分もそう思ったことだろう。
 けれど嘘ではない。そんな証拠しか、自分は見つけられなかった。
「嘘よーー!!」
 悲痛な叫びを、亮はただ受け止めた。一縷(いちる)の望みにかけて、気丈にも堪(こら)えていたのだろう涙。張り詰めた糸が切れて泣きじゃくる明日香にしてやれることは、今この場にいない吹雪の代わりに抱きしめてやることくらいだった。
 しばらくして、泣き疲れて落ち着いてきた明日香に、亮はこう言った。
「明日香、吹雪は必ず帰ってくる」
「…え?」
「吹雪は、お前を一人にしたりしない。お前が信じてやらなくてどうする?」
 それはそのまま、自分自身に言い聞かせる言葉だった。
「オレも信じる。だから、諦めるな」
 涙に濡れた瞳で見上げる明日香は、まだ嗚咽に震える声でこう言った。
「…明けない夜は、無い」
 不思議な確信を持って、その言葉は響いた。
「兄さんが言ってたの。…諦めたりしないわ、絶対」
 強い意志に満ちた瞳。それがこの逆境でも失われないこと自体が、彼女を守っていた吹雪の優しさが―吹雪が、失われていない証のように思えた。
 
 080731

 +++ limit→PERFECT 20 散在する面影 に続く +++

吹雪は明日香を目指して帰ってくればいいと思う。
「明けない夜は無い」は明日香が言ってたはずだが、それは吹雪に言われたんだっけ?あと中等部生ってあの島いるの?もうわかんないよ!

 
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