limit→PERFECT 20 散在する面影 あの日明日香は、吹雪の行方の手がかりを探すために島へと来ていた。そしてこの島で行方不明になったと知って、迷わずアカデミアの編入試験を受けることを決めた。 アカデミアの中等部三年へと編入してきた明日香と、高等部二年に進級した亮は、あの灯台で会うようになった。 有力な情報はほとんど得られなかった。だから大半の時間にしていたことは、相手の知らない吹雪について、互いに語り聞かせることだった。 吹雪のいない空白に、ある程度慣れてしまうだけの時間が経っていた。 そんなある日のこと。 「ねぇ、亮」 それはとてもさり気ない口調だった。 「私、亮のことが好きなの」 いつか言われたセリフがだぶる。 だから聞き返すまでもなかった。 そして今回は、考えるまでも無かった。 「…すまない。オレは明日香を…妹のようにしか、思えないんだ」 どう足掻いても、その気持ちに応えることはできない。言った言葉も本心だった上、さすがに本人がいない状況で明かすことははばかられるものの、自分は彼女の兄の恋人なのだ。 「…そう」 別段取り乱すでもなく、明日香は冷静だった。 「オレにできるのは、吹雪の代わりだけだ」 そう告げると、 拗ねたような顔で明日香はこう続けた。 「私、初恋相手兄さんなのよね」 さらりと告げられた二つ目の告白に、息が止まった。 「未だに兄さん離れできてないのかしら」 心臓が嫌な具合に走っている。流れる冷や汗を気取られないようにするために、全神経を集中しなければならなかった。 そんな亮の内心は一応伝わっていないらしく、明日香は少しだけ頬を染めてこう言った。 「兄さんには内緒よ?絶対舞い上がるんだから」 「ああ、もちろんだ」 心配しなくても言えるわけがない。無論、明日香が言ったのとは別の意味で。 絶対に舞い上がりはしない。まさかとは思うがその初恋の時期というのは、ひょっとして吹雪が例のトラウマを負った頃ではないのか。明日香がまかり間違ってその想いを伝えていたらどうなったのか、想像するだに恐ろしい。未熟な体と未熟な心。はっきり言って、二人ともがそれこそ壊れてしまったのではないだろうか。 今の吹雪なら、知ってもきちんと受け止められるかもしれない。が、とてもではないが試してみたいとは思わなかった。 無感情に答えて黙りこくる亮に、明日香が不安そうな顔で尋ねる。 「亮?…やっぱり驚いた?」 「いや、そこまでは」 はっとして反射で答える。 少なくとも明日香が思っただろう意味では驚いていない。この世の紙一重さには驚いているが。 「…そうね、私のほうが驚いたわ。こういうの鈍そうだと思ってたから」 確かに、吹雪のときは普段からしょっちゅう“好きだ”を連呼していた―誰にだったかわからない、ということは多分藤原に連呼していた―吹雪が、あの日に限って切羽詰った顔で告げたから、多分そういうことだろうと思ったのであって、普段を知らなかったらそうと気づいたかどうかは怪しいところだ。今回も、その吹雪とまったく同じセリフで告げられたからわかったのであって、これ以外の変化球で来られたら危なかったかもしれない。 そう言えばあのときも驚いたと言われた。同じ言葉を選ぶあたりはさすが兄妹といったところだが、その言い方にははっきりと兄と妹の違いが出ていて、そう考えるとなんだか少しおかしかった。 「…あーあ、失恋しちゃった」 淡々と語っていた明日香から、どこか噛み合わないセリフが漏れる。その噛み合わなさから漂うのは切なさだった。 とすんと真正面から寄りかかられて、亮は初めて会ったときと同じようにその肩を抱きしめた。 「…本当、兄さんと一緒ね。…ごめんなさい、少しだけ泣かせて」 「…ああ」 泣いている吹雪も、亮は何度も抱きしめた。けれど感じる感触も感情も別のものだ。 守られていた者特有の強さ。彼が大切に抱きしめていただろう妹は、だからこそ彼とは違う形の、しなやかな強さを身につけていた。 (吹雪。明日香がこんな風に成長したことを…お前は、誇っていい。だから早く、帰って来い) 080731 |
+++ limit→PERFECT 21 流れた時のかけら に続く +++ 16話書いた後、じゃあ明日香はと思って考えたら、TURN-20の態度も踏まえると、とりあえず兄より強い子でした。それも兄の愛の賜物なんだよ!一応!! 天上院兄妹両方に惚れられた男カイザー。 すごいドサマギで藤原のネタが入ってます。これじゃ覚えてるも同然じゃないか。なんかもう、そういう感じで。 アニメパート追うのはくどい&面倒&できないので、一気に吹雪帰ってきます(苦笑) |