吹雪のいない間に、亮は最高学年へと進級していた。学園のトップ、カイザーとして。
 思い出せない友人から贈られたのだろう二つ名を、この学園で知らない者は今や誰もいない。教師ですらそう呼んでくる。
 それだけの実力があるという自負はある。けれどそれ以上に―それは亮にとって、支えだったかもしれなかった。
 
  limit→PERFECT 21
 流れた時のかけら

「やぁ、こーんなところで何してるんだい?」
 ひょっこりと顔を出した吹雪は、そんなセリフで亮に声をかけた。
「…お前を待っていたんだ」
 ふわりと微笑むと、吹雪も同じように微笑み返した。
 行方不明だった吹雪は、帰還したとき、闇の力に操られていた影響からか、すべての記憶を失っていた。けれど、その記憶も明日香によって取り戻され、元通りの吹雪が帰ってきた、それが一昨日のこと。その夜は、吹雪の元に明日香が泊まりこんだ。それができたのは、吹雪が念のためということで医務室に送り返されたからで。
 昨日一日静養して、めでたく異常なしの検査結果により、今日、吹雪はブルー男子寮へと戻ってくることになっていた。
「それはまた、ずいぶんと長く待たせてしまったね」
 それは行方不明だった間のことも指しているのだろう。確かに長かった。吹雪が、茶化したセリフでこちらの出方を伺(うかが)ってしまう程度に。
「行きたいところがあるんだ。ついてきてくれるか?」
「もちろん、喜んで」
 
 * * *
 
 亮が吹雪を案内したのは、明日香と共に吹雪を待っていた場所、灯台だった。
 そこで話したこと、待っていた間のことを、亮は吹雪に話した。
 ひと段落した頃に、吹雪がこう言った。
「…それにしても、驚いたよ」
「何にだ?」
「カイザーなんて、一体いつの間にそんな素敵な称号をもらっていたんだい?」
 その質問に、亮は平然と答えた。
「藤原じゃないか」
「は」
 ぱちくりと、吹雪は目をしばたたかせた。
「覚えが無いんだ。お前が失踪した直後から、気がついたら学園中に呼ばれていてな」
「…それで、藤原?」
「ああ」
 空白の記憶。空白の友人。そこに当てはまりそうな名前がひとつだけあるなら、もうそういうことでいいんじゃないかと亮は思う。
「正直、助かった」
「どういうこと?」
「忘れなくて済んだ。この学園にいる意味を。…お前がいなくなってから、暫くはどうしていいか分からなかった。島中駆けずりまわって探して、他にはまともに身が入らなくて。だが、この学園でそんな風に必要とされていると知ったとき…思い出したんだ、オレは、デュエルをするためにここにいるんだと。だからこの学園でデュエルの腕を磨きながら、お前を待とうと思った」
 あの瞬間から、焦燥は去った。そして共に待つ明日香がいてくれたから、自分は吹雪のいない時間を乗り切れたのだろう。
「…吹雪―」
 ただ黙って聞いていた吹雪を、亮は抱きしめた。
 二年近い間、失っていたぬくもり。
「―無事で、良かった」
 声が、掠(かす)れてしまいそうだった。
 吹雪のいない間、人知れず押さえ込まれていた感情が、溢れ出していた。
「…亮」
 震える背中を、吹雪も抱きしめる。
 亮が泣いているところを見るのは初めてだった。
「もう、大丈夫。だから、安心して…」
 吹雪まで泣いてしまいそうだった。
 抱きしめる腕のぬくもりが、こんなにも愛しい。
 その腕を優しく解(ほど)いて見つめあう。
 自然に、その唇が重なった。
「…亮。…今夜、ボクを抱いてくれるかい?」
「ふぶき…」
 答えの代わりに、亮はただ夢中で吹雪に口づけた。
 
 080731

 +++ limit→PERFECT 22 未来へ旅立つとき に続く +++

灯台三連打ァ!直前まで話してた内容は89話で補完しよう。
亮が 藤原を 確信 しすぎ。藤原は妖精さんか何かか。
カイザーを藤原が命名したってネタを、突然適当に出して必死に後から肉付けしまくる作業は、実は楽しかったりします(核爆)

どうでもいいけど藤原優介の名前を吹雪が知ってたらまずいことを今更思い出した。…159話アバン…。…藤原優介、やっぱりボクが知ってる友達!?でもやっぱり思い出せない!?そういう解釈で、お願いしたい!(滝汗)
追伸:
…亮3話で泣いてんじゃん!(←忘れてたのかよ)…吹雪は気づく余裕なかったってことで。

090120追記:これの直後の補足的な1pまんがもどき描いてみた。

 
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