甘い蜜月。
 それを二人は今、ようやく手にしていた。
 けれど目の前に、どうしようもない、ひとつの別れが迫っていた。

  limit→PERFECT 22
 未来へ旅立つとき

「…吹雪?」
「え?あ、ああ、何?」
「…どうしたんだ?最近…」
 最近の吹雪は、二人でいても、気がつけば意識を宙に漂わせている。
「…いや、その、…うん」
「悩みでもあるのか?」
 亮はなんの気なしに言った言葉だったが、吹雪は傷ついたように目を伏せてしまった。
「…吹雪?」
「…あのさ。ボク、留年するんだよね」
 それはもう、決まっていたことだった。行方不明期間中の出席日数はどうにもならない。それは亮も、既に知っていることだった。
「…ああ」
 それが悩みの種だというなら、分からないではない。ただ亮にはまだ、具体的にどんな風に悩みなのか、実は分からなかった。
「それで、キミは卒業して。…そう簡単に、会えなくなっちゃうよね」
 そんなことはないと、軽く受け答えるほどに亮は気楽ではなかった。ただそれで二人の仲が続くか不安だとか言われるなら、簡単に否定してみせるつもりだったのだが。
「…そうなったら。ボクは、どうしたらいいんだろう」
「…え?」
「会えないってことは、こうやってキスしたり、抱き合ったり、できないってことだろう?」
 それはそうだ。会えないというのは、要するに物理的な問題だというのは、的確と言うしかない。
「ボク達は、それだけでつながっているわけじゃないけれど。でもじゃあ、例えばそれがなかったら…それは、なんなんだろう。いや、違うな、そんなことが言いたいんじゃなくて…」
 亮にもたれかかって、しがみつくようにして吹雪は言った。
「ボクは、亮が好きだよ。亮もボクを好きだって、今更そんなこと疑う気はない。離れてそれが薄れることが不安なんじゃない…」
 それはまだ、自問自答に近い言葉だった。けれど今言ってしまわないと、期限は着実に近づいてきている。
「…もう、ずっと前。キミはボクに、甘やかすなって言ったよね」
「…ああ。覚えている」
 それはかつて一度だけ、吹雪を手荒く抱いた夜のことだった。焦燥に駆り立てられて、吹雪の意思を無視しようとした亮を、吹雪は何も言わずに受け入れようとした。それが亮を余計に苛立たせることになり、結果強姦まがいの行為へとつながってしまったのだ。
「あの時は、どうしてキミがそんなことを言ったのか分からなかった。…だけど、今は少し、分かる気がするんだ」
「…吹雪」
「ボクがここで、離れるのが嫌だって言ったら、キミはきっと安心させようとする。離れて、寂しいって言ったら、それでも会えなかったら、キミは絶対に心を痛める。ひょっとしたら、デュエルとボクを天秤にかけなきゃならなくなるかもしれない」
 言われたことは、自分でも事実だろうと思うことだった。
「…そんなのは、嫌なんだよ」
 震えそうな呟きだった。
「キミの足かせになりたくない。なのに恋人のままじゃ、ボクはどうやったってキミに期待する。温めてほしくなる。…それだけじゃない」
 潤(うる)んだ瞳で、吹雪の手が亮の頬へと添えられる。
「キミをもう、温めてあげられない。あの時言ったことだって、果たせなくなるかもしれない。ううん…」
 吹雪はそっと、亮へと口付けた。
「…多分、もう、果たせてないんだ。二年の間に、キミはボクよりずっと先に行ってしまった。このままの関係で、キミに甘えるくらいなら、ボクは恋人でいたくない。…友達に戻ろう?離れていても、ボク達が支えあえるように…」
 吹雪は、泣きながら微笑んでいた。
「…そんな顔をしているお前を、オレは置いていくのか」
「…亮」
「…どっちに転んでも、お前は泣くんだろうな」
 恋人のまま離れ離れになっても、それを避けるために別れても。結局は吹雪を泣かせてしまう。
「…分かった」
 それがお前に必要なら、と、言いそうになった自分に気づいて、吹雪が言ったことが間違っていないことを悟る。少なくとも自分は今、吹雪を振り回す側ではない。
「今日が最後だ」
 そう言って交わした口付けは、酷く甘くて、それだけに切なかった。
 
 080731

 +++ limit→PERFECT 23 大切な君だから に続く +++

すべては本編とつじつまをあわせるため…だけじゃないけど別れてもらいました。そう決めたのは私なんですが、書いてて切なかったです…。
次は閑話休題で天上院兄妹話。

 
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