時は流れる。
 デュエル・アカデミアが異次元へと呑み込まれる危機、そこから脱出したものの、取り残されたヨハンを追って再び異次元へと向かった十代達。
 そこで明らかにされた十代の心に眠っていた闇、十代のルーツ。
 惑える十代に道を示したのは、自らの抱える認められぬ闇を、生き抜くという方法でそれと闘い抜き、答えへとたどり着いた亮の姿だった。
 
 デュエル・アカデミアの周辺で度々起こる次元の歪み。
 歪みが歪みを呼び、闇が目覚める。
 ダークネスの使者、トゥルーマンの出現。
 かつて闇に操られ、そして今もその力から決して自由になってはいない吹雪に残された選択肢はひとつだった。
 ダークネスの力を発現させ、なおかつ制御すること。力の制御は即ち、力の理解だ。
 それによって解き放たれたのは―吹雪の中に眠っていた、藤原の記憶だった。

  limit→PERFECT 26
 呼び覚まされた記憶

 療養中の亮を吹雪が訪ねたのは、それから一週間ほど後のことだった。
「…久しぶり」
 困ったような笑顔の、ぎこちない挨拶。
「ああ」
 異次元から生還した亮がここで療養していることは、鮎川先生から教えてもらっていたのだが、訪ねるのはこれが初めてだった。
 抜け出せない闇を抱えたままで、どんな顔をして会えばいいのか、分からなかったから。
「調子はどうだい?聞いたところだと、ちょっとごたごたしたみたいだけど」
「おおむね良好だ。確かに多少ごたごたはあったが…収穫のほうが大きかったからな」
 サイバー流現継承者である亮に挑戦してきた道場破りとの一件で、亮は弟である翔の成長を知り、二人でプロリーグ設立を目指すことを決意した。
 それを翔から聞いたとき、吹雪は心から安堵した。あの頃の亮の苦悩は終わったのだと。
「…オレのことより、お前はどうなんだ?」
 そんな風に気遣ってくれることが、何よりの証明だろう。
 自分がダークネスの力を使ったこと、記憶を取り戻したことを、多分彼も知っている。
 甘えてはいけないと思うけれど―これだけはどうしても、亮に話しておかなければいけないことだった。
「藤原のこと、どこまで覚えてる?」
 予想はしていたのだろう。その質問に戸惑うことなく、亮は答えた。
「…多分全部だ。灯台でデュエルした日のことまでは、思い出した」
 自分が記憶を取り戻したことで、この世界から消えていた藤原の痕跡は復元されたらしい。確認したかったことがひとつ分かって、吹雪は短く答えた。
「そっか」
「…ダークネスを呼び出したのは、あいつなのか?」
 念を押すように尋ねる亮に、吹雪はこう答えた。
「ちょっと、違うかな」
 そう言って吹雪が胸ポケットから取り出したのは、ダークネスの仮面のカードだった。
 今はもう、このカードに振り回されないだけの力はある。
「この仮面を創り出したのは藤原だよ。だけど、呼び出したのは彼じゃない。藤原は、呼ぶんじゃなくて自分から飛び込んだんだから。呼び出したのは…その力を使ったのは、あくまでボクだ」
 その言葉に、亮の瞳が険しくなる。
 吹雪が何を言いたいのか、大方分かったからだろう。
 吹雪はこう言っている。自分を支配していた闇の力、「ダークネス吹雪」の人格は、確かに自分の一部なのだ、と。
「…ほ〜んと、困っちゃうよねぇ。自分の嫌なところから…ボクは目を逸らしてばっかりだ」
 茶化すような口調は、吹雪の強がりだった。
「…吹雪」
「今は、何も言わないでくれ」
 気遣うように口を開いた亮を、吹雪はそう言って制する。
「弱音を吐いた後に言っても、説得力無いかもしれないけどさ。大丈夫。ボクは、大丈夫だから」
 暫く吹雪を見つめていた亮が、不意に頷いた。
「わかった」
 結局それに元気付けられたと思いながら、吹雪は言った。
「ありがとう」
 
 * * *
 
 それから暫くは、穏やかな日が続いた。
 けれど着実に、決戦の時は近づいていた。
 
 090215

 +++ limit→PERFECT 27 宿命(さだめ)のあるべき場所 に続く +++

二次創作ならではのチートが遺憾なく発揮されててすみません(…)
そもそも原作全部に並行する長編って時点で無謀なので、そこは生暖かくスルーしてやってください(苦笑)
160〜164話って、どのくらいの時間経ってるんだろう…。

 
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