ダークネスを退け、卒業式も終わった数日後のこと。
 既に退院の見通しが立った亮の病室を、吹雪が訪ねていた。

  limit→PERFECT 30
 完璧な不完全 前編

「じゃあ、藤原はここに残るのか」
「うん、ほとんどボクと同時期だから、二年からやり直しになるんじゃないかな?」
「妙なものだな。入学したのは同じ年なのに、三人隔年で卒業か」
「はは、なかなか無いよね」
 そんな中、他愛ない話の中で聞きそびれていたことを、亮は思い出す。
「…ひとつ、聞いていいか?」
「何?」
「…お前の両親も、ひょっとして―」
 ―もう、どこにもいないのか?
 そう言おうとした亮を、吹雪は人差し指を立ててウィンクひとつで制してみせた。
 優しく揺るぎない微笑みに、言葉が途切れる。
 それを確かめて亮が何を言いたかったのか、吹雪は分かっているつもりだった。
「…関係ないよ。人の心は、他人には癒せないし救えない。それは、キミだってよく知ってるんじゃないのかい?」
 ただ穏やかに、吹雪はそう言った。
「…ああ、そうだな」
 小さく苦笑するように、亮は頷いた。
 例え痛みを知っていても。
 痛みを共有できたとしても。
 それは本当は、何の解決になるわけでもない。
 それを知っていたからこそ、亮は見守ることを選択した。
 二人の意志に干渉しないことを。
「藤原は、自分で自分を救ったんだ。ボクは何もしちゃいないよ」
 それは謙遜でもなんでもなく、吹雪の正直な感想だった。
 自分が何を言っても言わなくても、藤原を救える力は藤原の中にしかない。それだけは、誰にも与えてやることはできないのだ。
「…それでも…誰かと共にいたいと、そう思うのは、何故なんだろうな」
「…亮?」
 その呟きは、どこまでも優しかったけれど。
「―どうして、忘れられたかったか教えてやろうか?」
 続いた言葉には、どこか悪戯っぽい雰囲気が潜んでいた。
「え…」
「どういう意味だろうと、オレより藤原を選ばれるのは癪(しゃく)だったんでな。それくらいなら、最初から選択肢から消えておこうと思っただけだ」
 それって、つまり。
 吹雪が確認するまでもなく、亮は穏やかな微笑みで言った。
「お前が好きだ、吹雪。お前のためにできることが、何一つないとしても…それでも、一緒にいたい。できればずっと、そばにいてくれ」
 ただ静かなその言葉に、吹雪の胸が詰まる。
 受け取った言葉から、温かな想いがあふれてくる。
「…キミほんとに、そんな謙虚なこと思ってる?」
 そんな憎まれ口を叩いても、亮はさらりとかわす。
「さぁ、どうだろうな」
「もう…」
 ため息一つついて、吹雪は続ける。
「キミはボクにこう言わせたいのかな、誰かのためにできることがないなんてことはない、そうでなきゃ、誰も誰かと一緒にいたいなんて思わない…」
 ただ微笑む亮を、吹雪は抱きしめた。
「…ボクだって同じだよ。結局これだけ変わらない…亮、キミと一緒にいたい。キミのことが、好きだよ」
 何度も重ねてきた言葉なのに、今までのどれとも違う気がした。
 どちらからともなく、唇が重なる。
 互いの温もりが、確かに行き交う瞬間だった。

 090316

 +++ limit→PERFECT 31 完璧な不完全 中編 に続く +++

…結局吹雪の両親の設定はこうなってしまいました。
本当は前・中・後全部で30話のつもりだったのですが、長くなってしまったので分けました…(汗)

 
BACK