limit→PERFECT 31 完璧な不完全 中編 一方その頃。 亮の病室の外で、こっそりと会話する二人がいた。 「兄さんが吹雪さんに告白するところ見ちゃった…」 「っていうか、別れてたんだな、あいつら」 「え、あの二人ってつきあってたんスか!?」 「うん、俺が知る限り…って言っても、俺しか知らなかったとは思うけどね」 「ボクは兄さんの告白を目撃したことに驚けばいいのか、相手が吹雪さんなことに驚けばいいのか、分からないッス…」 「いや、まぁどっちにも驚けばいいと思うけど」 「…ボクはどうすればいいんだろう」 それはつまり、反対するべきか祝福するべきかということなのだろうが。 「別にどうしたっていいんじゃない」 藤原はそっけなく返す。 そのそっけなさに不満でもあるのか、翔の矛先が藤原に向く。 「なんで藤原くんそんな淡白なんスか?」 「んー?…まぁとりあえず、俺は吹雪の味方だから、かな」 にっこりと笑った藤原の真意が、読み取れたわけでもないのだろうが。 方針はそれでいけると思ったのか、妙な真剣さで翔が呟く。 「…じゃあボクは、兄さんの味方ッス」 「はは、いいんじゃない」 そう言って笑った藤原が、やおら病室の扉を開けた。 亮が一番に気づいてこちらを見やる。 「藤原」 「えっ?」 「ちょ、何やってんスか!?」 振り返った吹雪とほぼ同時に翔が叫んだ。 翔としては正直、このまま帰ろうかと思っていたくらいだった。 「せっかく来たのに、会わないと意味無いだろ」 こちらを振り返ってけろりと言い放つ藤原に、翔は冷や汗をかく。 (…やっぱりこの人、兄さんや吹雪さんと一緒にいただけあるッス) この場で誰より動揺しているのが自分だということに気づいて、翔は藤原を二度とくん付けすまいと心の中で誓う。 「来てくれたのか」 「今のところ暇だからね。当分はさらに暇になりそうだけど?」 「新学期はすぐじゃないか。藤原なら―と、ゆー…うー…」 ぎくしゃくと言葉につまる吹雪に、藤原が苦笑する。 「あー、別に今更呼びにくいなら無理して変えなくていいから。どっちだって一緒だろ」 「…まさかこんなトラップが仕掛けられていようとは…まぁ藤原がいいなら、もういいけどさ」 今はもう、呼び方にそう大した意味は無い。正確には、呼び方が変わることにたいした意味が無いというべきか。 自分達を結んでいるものが、今更呼び方程度で揺らぐような絆ではないと、両方が信じている限り。 「藤原ならすぐに友達もできるさ。暇なんて言ってられなくなる」 「それはさすがに楽観的すぎると思うけど。まぁ…やれるだけやるさ」 「うん」 にっこりと笑いあう二人を見届けてから、亮は翔に声をかけた。 「今日はどうしたんだ?」 「…えっと、その…」 何故かそこで口ごもると、翔は吹雪にちらりと視線をやって、そしてうつむいた。 「…?」 それを見て暫く考えてから、吹雪はこう言った。 「…あれ、ひょっとしてさっきの、聞いてた?」 「お前、気づいてなかったのか?」 すかさず突っ込んだのは藤原だった。 「いや、その、実はずっと聞かれちゃったかなーって気にはなってたんだけど、こっちから言うのもやぶへびかなと」 誤魔化すように吹雪は笑う。 「そうだったのか?」 「うんキミは平然としすぎなんじゃないかな」 心底意外そうな声で尋ねる亮に、振り向くことなく突っ込むと、吹雪は苦笑しながら翔に言った。 「いやー、その、ごめんね、驚かせて」 「い、いいッス、それは…ただ、その」 さらに言いにくそうにした後で、しかしこの空気なら許されるだろうと思ったのか、翔はどこか申し訳なさそうにしながらもこう言った。 「…今日、これから住むところの話しようと思ってたから…」 視線をさ迷わせる翔に、なんのことか真っ先に気づいて吹き出してしまったのは吹雪だった。 「ひょっとして、邪魔しちゃいけないとか思った?」 心配しなくてもいいのに、とでも言うような調子で吹雪が言うと、翔が顔を赤くして頷く。 「だってさ、どうする?お兄ちゃん」 ただ一人ぽかん、と置き去りにされていた亮が、その言葉に我に帰る。 どこか戸惑うような調子で言った。 「オレのところに来るものだと、思っていたんだが」 「え…」 今度はそれに、翔が戸惑う。 気まずい沈黙が流れた。 「…いいの?」 おずおずと、翔が尋ねる。 「一緒に、プロリーグを作ってくれるんだろう?」 「当たり前だよ!」 てんてんてん、と、沈黙が降りる。 感覚が思いっきりすれ違っている二人をフォローするように、吹雪が笑った。 「亮は最初から、キミと暮らす以外の選択肢なんか見えちゃいないよ。それにボクも、当分は忙しいしね」 不思議そうな顔で吹雪を見てから、翔はこう尋ねた。 「…そう言えば、吹雪さんはこれからどうするんスか?」 この時期になっても知らなかったのは、本当に今までまったく疑問に思わなかったからだ。吹雪が年上の空気を持ったままで自分たちの学年に溶け込んでしまうせいで、吹雪も条件は自分と同じなのだということを、翔はついつい失念してしまう。 「プロデュエリストだよ?ただし、エンターテイメントリーグだけどね!」 「…聞くまでもなかったッスね」 当然のように言われて、納得する。そもそもアカデミアで吹雪がやっていたことは、寸分違わずエンターテメントデュエルだ。 「デビューと同時に、本も出るからよろしくね☆」 「そんなの書いてたのか、お前」 呆れたのは藤原。 「なんかもう何言われても驚けそうにないッス」 ついていけずに乾いた笑いでコメントしたのは翔だ。 亮はただ、吹雪を見つめているだけだった。 「…じゃ、用事も済んだことだし、帰ろうか、翔くん」 「え?…え?」 唐突に翔を方向転換させて出口へと押しやる藤原は、翔の反応を気にも止めない。 逆らえずに廊下まで押し出されて、振り向くとその先で藤原も二人を振り向いていた。 多分笑って、からかうように藤原はこう言った。 「大事な話するんなら、鍵くらいかけとくんだな、亮」 そしてごゆっくり、とでも言うように、一方的に扉を閉めた。 その態度に、翔が呆れて言った。 「…最初から邪魔するつもりで開けたんスか」 「まぁね」 しれっと藤原が答える。 「別にいいだろ、これくらい」 「知らないッスけど」 ああ本当に、この人は兄や吹雪の友達なんだと、翔が実感するのは何故かこんな態度ばかりだ。 藤原がこちらを向いて、さっぱりとした顔で言った。 「もうちょっと話したかったかもしれないけどね、今から食堂でも行く?なんだったら二人が一年のときの話、教えてあげるよ」 ペースを乱されっぱなしで戸惑いながらも、それはなかなかに魅力的な誘いだった。 「…聞きたいッス」 速攻で答えた翔に、藤原は満足げに笑った。 「じゃ、行こうか」 090316 |
+++ limit→PERFECT 32 完璧な不完全 後編 に続く +++ 藤原が邪魔する気満々であの扉を開けたのだとは、去り際を考えるまで私も知りませんでした(←待て) この後こいつらどうするんだろうなぁ、と思ったら、こうなったっていう話です。一応「本編と矛盾を出さない」ことがこのシリーズの目標なので、呼び名ネタは必須条件でした…(爆) |