limit→PERFECT 32 完璧な不完全 後編 嵐のように去っていった二人に取り残されて、室内には妙に気の抜けた空気が漂っていた。 「…一本取られたね、亮」 「…そうだな」 そう言って亮は、しばらく考えたかと思うと、立ち上がって入り口の方へと向かい、鍵をかけた。 「………」 さっきの藤原のセリフを受けてなのは明白で、何を言う気なんだろうと、吹雪はひたすら亮を見つめる。 ゆっくりと戻ってくると、ベッドサイドへと腰掛けた。 「…吹雪」 「何?」 微妙に困ったような顔で、亮が言った。 「…一緒に住むとか、そういうことを思いつかなかったのは…さすがに薄情か?」 その言葉に、きょとん、とした後で、吹雪はくすりと笑った。 「いやぁ、絶対そうだと思ったボクも薄情かな、それだと」 「…そうなのか?」 「うん。だってキミ、デュエルのこと考えたら他のこと全部飛んじゃうでしょ、ってのを、当たり前だと思ってるからねぇ」 要するに、それを寂しいと感じないのも薄情と言えば薄情だろう、ということで。 「………」 釈然としないのか、まだ考え込む雰囲気の亮の隣に、吹雪は腰掛けた。 「キミがボクのことだけ〜っていうのも、魅力的ではあるけどね」 穏やかに微笑む吹雪の表情は、それも確かに本音だと告げていた。 けれど寂しくないのも、多分嘘ではない。 「でもキミからデュエル取ったら、何も残らないじゃないか。空っぽの亮なんて、ボクはいらないよ」 淡々とした言葉が、すんなりと亮の胸に落ちていく。 次の瞬間、吹雪が心から楽しげに笑った。 「だってそれじゃ、詰まらないだろう?まさに」 その笑顔に、随分と久しぶりな類(たぐい)の痛みが心臓を襲う。 「…オレの息の根を止めるのはお前かもしれんな」 「…どういう意味?」 その質問には答えずに、亮は吹雪を押し倒した。 さっきまでの引っかかりは跡形も無く消えていた。 だから亮は、笑って言った。 「何がどうだろうと、お前はオレのすべてだということだ」 「…すごいセリフ」 そう言った吹雪も、久しぶりに見る面くらい方をしていた。 同じような痛みを、きっと吹雪も感じている。 「一緒に住むとか、そういうことは、もう少し後でいいか?」 「そうだねぇ。翔くんに追い出されたらおいでよ。いつでも歓迎だからさ」 笑った吹雪の言葉に、亮が硬直する。 「…シャレにならんな」 「あ、キミもそう思う?」 「予言かと思ったぞ」 「そこまでかい?」 顔を見合わせると、ぷっ、と、同時にふきだして、二人は笑った。 高鳴る鼓動とは裏腹に、不思議と穏やかな空気の中で、二人の距離が縮んでいく。 「…一緒にいたいって、思ってくれてるんだろう?それで十分さ。それさえあれば、絶対また会えるって、もうボクたちは知ってるんだ」 誰かと、何かと、もう二度と逢えないかもしれないと、そう思ったことは何度あっただろう。 それでも今、何も失くした気がしないのは、きっと二人でここにいるから。 「キミがどこかでボクのことを想ってる。それだけでボクは満たされるよ。それでも―」 ―それでも少し足りないから、少しだけ確かめようか。 唇ごと言葉は奪われた。それ自体が答えだった。 限りなく近づく瞬間が、離れている永遠を支えている。 過去も未来も、世界のすべてが、今この瞬間の中にあった。 090316/090319(微修正) |
+++ あとがき +++ |