ニ、契約 結局、数週間も経たない内にユベルは王子付きの勉強仲間兼遊び相手のような身分に収まっていた。 (いきなり城から迎えが来たときには、何かと思ったけど) 王子の父である王から、王子のお目付け役を直接頼まれたときには、正直肝が冷えた。けれど― 「あれには同じような年齢の友人がいない。そのせいもあって、あまり自分の立場というものも分かっていないのだ。そなたには苦労をかけると思うが、仲良くしてやってくれ」 ―この親にしてこの子ありというか、王もまた鷹揚な人だった。けれど、王は知っているのだろう。否応無く自分が持っている力を。彼がユベルのような身分の人間に頼み事をすれば、断れるわけがないということを。 ユベルは微笑むと、こう答えた。 「…私のようなものに務まるかどうかは分かりませんが、王より授かった役目、精一杯勤めさせて頂きます」 そう言ったユベルの頭を、王は優しくなでた。 「あまり聡すぎるのも、損なものだな…」 そう言った王の複雑な微笑みを、ユベルは一生忘れないと思った。 自分がここにいるのは半分は王子の我侭で、けれど半分は自分の願いでもあった。 (王子にもう一度会いたいと思ったのは、本当だから) それも王は承知しているのだろう。人の情を権力で利用するような形になったことを、王は苦く思っている。それがこれからも続くかもしれないことを。 だからこの手のひらは、権力ではなく情でユベルを扱うという意思表示だ。 ユベルには両親がいない。そんな子どもはこの国には掃いて捨てるほどいて、けれど人の情にあふれたこの国では不自由を感じるほどの身分でもなかったから、気にしたことはなかったけれど。 父親というのはきっとこの人のような人を言うのだと、そのとき思ったのだ。 「何か困ったことがあれば、遠慮なく私に言いなさい。そなたの役目には、それくらいの価値があるのだから」 「もったいないお言葉、ありがとうございます」 |